9話 娘との対話。
9話 娘との対話。
「そこの臭そうなヘチマ……あんた、だれ?」
「……俺は……えっと……かみのそうぞう……です……」
――紙野は、かなり慎重に言葉を選びながら、そう言った。
すると、トコは、
「はぁ? かみのそうぞう? あんた、わかってる? 『その手の冗談』を、聖神国の人間に言ったら、普通に殺されるんだけど?」
紙野が創り上げた世界――ニコトピアには、
『かみのそうぞう聖神国』という宗教国家が存在する。
その国に生きる者たちは、『かみのそうぞう』という神を信仰しており、
『かみのそうぞう』を侮辱されると烈火のごとく怒り出す。
『かみのそうぞう』を騙るようなバカ野郎は、
普通にとらえられて、問答無用で処刑されるだろう。
「あの国にいる宗教バカどもは、マジでシャレが通じないから。その中でも特に、ヒナ・パラデントホーリーとかは、冗談に適応できない狂信者の筆頭。あのクソ宗教バカが、もし、あんたの今の冗談を耳にしたら、何をされるか――」
と、トコが喋っている途中で、
紙野は、
「――トコ。ある日、突然、カードホルダーの中に、異常な魔カードが入っていたって経験、ないか?」
そんな言葉を投げかけた。
その瞬間、トコの顔が小バカにしているような表情から、
グっと眉間にしわの寄った真剣な表情に変化した。
「……なぜ、それを……」
「その魔カードの名前は、『人気投票三位おめでとう券《トコ・ドラッグ専用真聖魔装》ランク333』……間違いないか?」
「……」
『人気投票三位おめでとう券《トコ・ドラッグ専用真聖魔装》ランク333』――『ソレ』は、いつのまにか、カードホルダーの中に入っていた、謎の極大魔カード。
『時限強化型』の『使い捨て』であるため、『もしもの時の切り札』として温存している、最高位の至宝。
『なぜ、それを自分がもっているのか』――それに関してはさっぱり分からないが、このアイテムが、別格に優れていることは理解できたので、捨てずに大事に持っておいた。
このアイテムに関して、トコは、今まで、誰かに話したことはない。
この世の、誰にも、絶対に、話したことはない。
だから、仮に、これについて知っている者がいるとしたら、
それは、
「……神……」
『目の前にいる人物が、間違いなくそうである』と思ったわけではない。
まだ、半信半疑。
ただ、極大魔カードについての情報を知っている者は、他に思い当たらない。
「神ではなく、パパと呼びなさい」
などと、場をなごますためにチョケていく紙野。
空気を換えるためにチョケているだけではなく、
実際にお父さんと呼んでもらいたいという欲求もぶつけていたりする。
クロートに、父性を底上げされているせいで、
どうしても『その手の欲求』を抑えきれない。
『無意識』をいじくられている今の紙野は、
『赤ちゃんが産まれたばかりの新米お父さん』とほぼ同じぐらい、舞い上がっている。
トコの写真を撮って、知り合いに見せびらかしたいと思うぐらい、とことん茹で上がっているのだ。