表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

460/1228

8話 トコ・ドラッグのフラグメント。


 8話 トコ・ドラッグのフラグメント。


「進行状況をデジタルに確認できるのはありがたいけどねぇ」


 などと、紙野がつぶやいた直後のことだった。


「……ん……」


 トコ・ドラッグが、ゆっくりと目を覚ます。

 しかし、もともと、寝てなどいなかった。

 『今、目覚めた』という演技をしているだけ。


 彼女は、ずっと、あらゆる魔法やスキルを駆使して、

 紙野の『父性』を強制的に増幅させようと頑張っていた。


 ハッキリ言ってしまうと、彼女は、『クロートの擬態』である。

 とはいえ、ただのハリボテなコスプレではない。

 安い擬態では、紙野の『センサー』をごまかすことはできない。

 本物でなければ無意味。

 クロートならば、紙野に『子の存在はトコ・ドラッグである』と思わせることが可能。


 なぜなら、クロートは、トコ・ドラッグの因子フラグメントを持っているから。

 ミシャンド/ラに対する悪意を媒体にして、この世界に顕現できたのと同じ。

 『薬宮シリーズ』の因子を持つ彼だからこそ、

 『紙野創蔵』の目を欺くことができる。


 ――もっと根本的なことを言えば、欺いているというわけですらない。

 事実として、クロートの中には、

 紙野創蔵が愛している『トコ・ドラッグ』の一部が存在するのだから。



 ――『トコ(クロート)』は、

 周囲をきょろきょろと観察してから、


「は? ここどこ?」


 と、何も知らない美少女の演技を徹底する。

 すべては、紙野創蔵をコントロールするため。


 トコは、周囲確認の中で、紙野を発見すると、

 険しい顔つきで、


「そこの臭そうなヘチマ……あんた、だれ?」


 と、言葉を投げかけた。


 能力は高いが、口の悪い美少女。

 それが、トコ・ドラッグの性格。


 ――クロートは徹底して、トコ・ドラッグを演じる。

 それは、けっして、難しい事ではなかった。

 実のところ、クロートは、ほとんど演技をしていない。

 ほぼほぼ自然体のまま、『自分の中にある一部』をさらけだしているだけ。


 自分の中に存在する『トコ・ドラッグの因子』を濃くするだけで、

 自然に、『トコとしての性格』を前面に出すことができる。


 対『紙野創蔵』においては、非常に便利な存在。

 それが、バリアブル・ミシャンドラ・クロート。


 ――ただ、いつまでも演技をしていたら、

 いつか、どこかでほころびが出てくる可能性がある。


 だから、クロートは、徐々に、『トコの因子』の濃度を濃くしていっている。


 すでに『紙野の父性を底上げする』という作業は終わっているので、

 『クロートの意識』は必要ない。

 あとは、潜在意識に潜んで、無意識の心理コントロールをするだけでことたりる。


 だから、クロートは、トコの因子を濃くするのと並行して、

 自分の自我を、どんどん消していく。


 現段階で、すでに、『トコ・ドラッグの意識』が9割を占めている。

 ゆえに、すでに『演技をしている』という段階を超えている。

 記憶の制御もほぼほぼ完了した。


 もはや、擬態ではない。

 ――彼女は、トコ・ドラッグである。

 『紙野創蔵』と同じく、

 『なぜ、自分が、ここにいるのか理解していない状態』の異世界サバイバー。


 肉体も、意識も、記憶も。

 ほぼ完全なるトコ・ドラッグとなった。

 こうなったら、もはや、疑う余地はなくなる。



 ――ゆえに、『あんたは誰だ?』と問われた紙野は、



「……俺は……えっと……かみのそうぞう……です……」



 ――かなり慎重に言葉を選びながら、そう言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ