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7話 善悪への執着。


 7話 善悪への執着。


「説明書……ねぇ。原本の九十九神シナリオに、そんなもんはないけど……そういうアレンジが加えられたタイプのリプレイなら、見た事がある。……正直、ありがたい……何もない状態でいくら考えても、光は見えてこないからな。すこしでも、考えるための情報がほしい……」


 すぐさま、読み込んでいく紙野。

 その説明書には、今の紙野の身に起こっていることが詳細に描いてあった。




 説明書に書いてあったことを、ザっとまとめると、次の通り。


 『お前のニコトピアは崩壊した』

 『ここは、ニコトピアとは別の世界』

 『現状、トコ・ドラッグ以外はすべて消滅している』

 『トコ・ドラッグだけは、どうにか回収したが、ニコトピアが死んだままだと、トコもいずれ死ぬ』

 『タイムリミットは、そんなに長くないと思え』

 『すべてを救い出したければ、この世界を絶望で染め上げろ』

 『その負のエネルギーを使う以外に、ニコトピアを復活させる方法はない』


 ぐだぐだと、長文で書いてあったが、まとめると、こんな感じ。


「……負のエネルギーは、世界循環に関わる最大級のエネルギー……負のエネルギー以外を使っても、『崩壊した世界を復活させることは可能』だが、とんでもない時間がかかる……最短かつ確実に復活させるためには、負のエネルギーが最適……」


 ぶつぶつと、何度も口に出して、自分の頭に、重要な情報を叩き込んでいく。

 目と耳と口を使って、記憶力を底上げしていく。

 音読するのとしないのとでは、頭に入ってくる割合が全然違う。


「――『ニコトピアの神』である俺の『転移』が、ニコトピア崩壊の直接的な原因……俺が転移した理由は不明だが……とにもかくにも、俺の転移によって、ニコトピアは崩壊した……つまり、俺のせいで、トコ以外が消滅して、トコも、危うい状態にある……ふざけた話……俺のせいで、トコが死ぬとか、絶対に認めない……」


 時間がたつにつれて、紙野の父性は、どんどんましていく。

 強制的に底上げされていく感情の坩堝るつぼ


「俺にとって大事なのは、ニコトピアだけ……それ以外の世界がどうなろうと知ったことか……」


 『覚悟』が、紙野の顔を、黒く染め上げていく。


 紙野の中に、『生粋の邪悪さ』というものは存在しない。

 夢破れたことに対する劣等感や、夢を叶えた者に対する嫉妬心などはあるが、

 『純粋な悪意』というものは存在しない。


 ――そういう、ある意味で、無垢な者の方が、時には、何よりも怖い存在になりえる。

 善悪に頓着がない生粋。


 『歪んだ悪意を放出しているだけの者』は、その情動がある程度満足すれば、暴走が止まることもありえるが、『悪意』ではなく『覚悟』だけで、邪悪さを執行しようとする者は、ブレーキを失った暴走機関車。



 ――調律されていく。

 紙野は、『絶望をまき散らすだけの道具』として、

 しっかりと、整えられていく。


 もともと、紙野の中には、トコに対する父性が存在していた。

 それを、悪意をもって増幅している者がいる。

 それは、誰か?

 もちろん……


「お?」


 紙野の特異性が膨張したのを確認したところで、

 右手首に巻かれているアップル〇ォッチが、ボォっと光り輝き、

 タッチスクリーンに『0%』という数字が浮かび上がった。


 説明書に書いてあることが真実なら、

 この世界に絶望をまき散らすほどに、

 この数字が増していき、

 100%になれば、ニコトピアが復活する――らしい。


「進行状況をデジタルに確認できるのはありがたいけどねぇ」


 などと、紙野がつぶやいた直後のことだった。



「……ん……」



 トコ・ドラッグが、ゆっくりと目を覚ました。



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