表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

458/1228

6話 準備とリハーサルは十分。


 6話 準備とリハーサルは十分。


「――ゴミみたいな人生だった……だから、あっちでの生活がなくなることは……最悪、別にいい……ニコトピアを投稿して、リスナーに喜んでもらう……それが、永遠にできなくなることだけは残念だが……それだけだ……夢破れた底辺のドクズ……その人生を全うしたところで、何にもならねぇ……」


 トコの顔を見る。

 何度でも見る。

 今の紙野にとっては、彼女の存在だけが唯一の精神安定剤。


「切り替えろ。絶望したって意味はない。……こうなったら、もうどうしようもない。戻りたいと願っても無意味。もしかしたら、戻れる方法もあるかもしれないが、今、ここでそれを考えても無意味。だから、別の事を考えろ。これからどうするか、具体的に考えろ。いつも通り、お前のことを考えてくれるのは、お前しかいないんだから」


 自分に言い聞かせる。

 誰も助けてくれなかった人生の処世術。


 自分だけしか頼れない世界での戦い方は一つだけ。

 だから、必死になって、考える。


「どうするべきか、どうしたいか……『どうしたいか』という視点で言えば、とりあえず、トコだ……この子を守りたい……俺のゴミみたいな人生の中で、たった一つ、一番の幸せをくれた、俺の娘……」


 反射的に、紙野は、トコの頭をなでた。

 柔らかな髪。

 『胸の奥で芽生えた父性』が、時間を追うごとに増していく。


「とりあえず、今は、『それ以外』は『どうでもいい』……」


 暴走する父性。

 もし、トコがいなければ、

 『自分が助かること』だけを考えていただろう。

 それは決して悪い事ではない。

 自分を大事にするのは当たり前の行動。


 ――しかし、紙野は、この極限状態において、

 自分よりも、トコを優先しようとしていた。


 この辺に、彼の『バグっているところ』がうかがえる。


 紙野は、普通の一般人ではない。

 頭のネジがぶっ飛んでいる変態。


 棋士を目指して命を削り、夢破れて未来を失い、

 『当然』のように、ぶっ壊れてしまった敗北者。



「トコを守りたい。今の俺にとっては、彼女だけが全て。……彼女を守るために、俺が出来ることはなんだ?」



 すぅぅ、はぁぁ、と深呼吸をひとつ。

 冷静に、必死に。

 もっといえば冷徹に、思考の奥へと沈んでいく。


 ――『深く考える』という行為は苦手じゃない。


 『自分に出来ること』を考えている途中で、


 目の前に、スゥっと、

 『表紙に説明書と書かれた本』が顕現した。


 さらに、続けて、自分の右手首に、アップ〇ウォッチのようなデバイスがスゥっと具現化された。


「……おかしな状況が連鎖していくな……もう、この程度で驚くとは思わないでくれよ」


 などと、どうでもいいことを口にしつつ、


「取れねぇな……このアッ〇ルウォッチ……」


 自分の右手首に具現化されたアップル〇ォッチをテキトーにいじる。

 とりあえずいったん外してみようとしたが、どうやら、それは不可能なようなので、その点に関しては、すぐさま諦め、

 紙野は、地面に落ちている説明書を手にとった。


「説明書……ねぇ。原本の九十九神シナリオに、そんなもんはないけど……そういうアレンジが加えられたタイプのリプレイなら、見た事がなくもない」


 チクタクダンスの動画投稿をしているのは紙野だけではない。

 九十九神シナリオの導入を分かりやすくするため、『冒頭に神から説明書が与えられるというパターンで動画を投稿している者』も一定数存在していた。


「正直、ありがたい……何もない状態でいくら考えても、光は見えてこないからな。すこしでも、考えるための情報がほしい……」


 すぐさま、説明書を読み込んでいく紙野。

 その説明書には、今の紙野の身に起こっていることが詳細に描いてあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ