9903話 禁止魔カードは、万能のチートアイテムではない。
9903話 禁止魔カードは、万能のチートアイテムではない。
正しい静寂の中、夕闇の果てにある輝きに包まれているT・104。
背負っているのは、アストラル神字が浮かぶ後光輪。
星のフレームを持つ黒銀の結晶がちりばめられた、絶烈な究極超神気。
銀華の煌めきを圧縮させたようなオーラ。
いくつかの限界を屈服させて、詠うように輝く、天才界の一等賞。
――そんな破格の神々しさを前にして、
クロートは、
「禁止魔カードは、『どんな願いでも叶えてくれる万能のチートアイテム』ってわけじゃない。『許されざる禁忌』には、当然、『とびっきり重たい代償』が伴う。命、想い、世界、物質、精神、倫理、理念……多くを犠牲にしながら、『諸行無常に対してルール違反を押し付ける』――そんな卑劣極まりない犯罪行為」
「たいそうウレしげに歌ってくれとるとこ悪いけどのう……ワシもアホやないから、その辺のアレコレは、全部、普通に、ご理解OKの構えでやらせてもろてんねん……もう、何度でも言うたるけど、ワシ、マジでキレてんねん……ワシみたいに、『賢くて、どっかネジがバグっとるヤツ』を怒らせたら絶対にアカンってことを、その身に叩き込んだるわ」
そう言い捨ててから、
トウシは、クロートの背後を奪い取る。
一瞬を切り取ったコンマ数秒。
その『極めて短い時間』の中で、
トウシは、ありったけの残虐性を、クロートの背中に叩き込む。
「ぐぅううっ!!」
激痛に奥歯をかみしめるクロート。
何をされたのか理解するよりもはやく、
トウシの『次の一手』が炸裂する。
「がっはぁああああああっ!」
それも、激痛を伴ったが、何をされているのか理解できない。
(――簡易の7では、目で追うことも出来んな……)
激痛の中で、しかし、冷静に、状況を分析したクロートは、
「はぁあああああああっ!!」
全身のオーラと魔力を、
今の自分に可能な『とことん』まで練り上げてから、
「――究極超神化7っっ!!」
『パーフェクトコールの7に届かせよう』と必死になって叫んでみた。
しかし、残念ながら、
『究極超神化7パーフェクトコール』は、
『頑張ればできる』というものではない。
(……ちっ……ダメか……)
クロートは、『田中トウシとの邂逅』で、己の潜在能力が開かれる可能性に賭けた。
しかし、その賭けには普通に負けてしまった。
(今の私では、パーフェクトコールには届かない。……それが理解できただけでも収穫としておくか)
別に、この『賭け』に、オールベットしていたわけではない。
まだまだ、手持ちのコインはある。
「できれば、私一人で片付けたかったところだが……覚醒できなかったのだから、仕方がない。『資格』はあるつもりなのだが、それだけではダメだというのが『覚醒』の厄介なところ」
などと、そんなことを言いながら、
アイテムボックスから魔カードを取り出す。
「禁止魔カードを使えるのが自分だけだなんて思っていないよな?」
そう言ってから、
クロートは、
「はないちもんめ」
詠唱しながら、禁止魔カードを破り捨てる。
すると、
次元に亀裂が入って、
その奥から、『喪服を着た青年』が這い出てくる。
彼は、チラっと、軽く周囲を確認してから、
黙ったまま、クロートに視線を向ける。
その視線に呼吸を合わせるように、
クロートは、微笑みを浮かべて、
「悪いな、超苺。田中トウシが相手だと、さすがに、私一人では厳しかった。加勢してくれ。一時的なサポートなら、どうにかなるだろう?」




