9894話 それ、ほしい。
9894話 それ、ほしい。
バーチャの視点での現状を、ムリにたとえるならば、
ファ〇コンしか知らない人間が、プレイステー〇ョン5の性能を見せつけられたようなもの。
ありえない演算処理能力を魅せつけられて普通に困惑。
「どこで手に入れたぁ! 教えろぉお! そして、よこせぇ!」
『それさえあれば、自分はもっと輝ける』と理解したバーチャは、
脳を沸騰させて、ショデヒに突撃。
まるで、『ぶっこわれ人権キャラが追加された新ガチャ』を前にした『廃課金者』のような勢い。
上位者であればあるほど『高性能なCPU』は、喉から手が出るほどほしいもの。
「凛帝打ぁあああ!」
最強の一撃で、ショデヒを爆散させようとしたバーチャ。
――殺してでも奪い取る。
そのスタイルを地で行く悪神の鏡!
そんな、バーチャの最強の一手に、
ショデヒの体は自動で反応する。
驚くほどたやすく、
ショデヒは、バーチャの凛帝打を受け流した。
それを見て、バーチャの顔は、驚愕と憤怒で一杯になる。
そんな彼に、ショデヒは、
一度、ふぅと、深く深呼吸をはさんでから、
少しだけ冷静な態度で、
「……あなたの一撃、私の目には全然見えていませんでしたが、タナカッチからすれば、大したことないものらしいですよ。悲しい話ですね、お互いに」
そう言い捨ててから、
両の拳を握りしめて、
「殴り合いは苦手ですが……タナカッチは、殴り合いも別に苦手ではない様子。となれば、あとは、全部お任せした方がよさそうですね」
そう言い捨ててから、ショデヒは、姿勢を低くして、グンっと伸びのある動きで、バーチャとの距離をつめた。
ゴリゴリのインファイト。
互いの拳が届く距離をキープして、
ショデヒは、魔力とオーラを込めた拳を、
テンポよく、ボクシングのペースで、バーチャの腹部や顔面に叩き込んでいく。
「貴様のような『後衛トリッキー型』ふぜいが、『神界最強の前衛速攻』である私にインファイトを挑むなど!!」
その憤怒が、バーチャを、ショデヒと同じ土俵に立たせる。
ここで、『違う角度からの奇襲』など出来ない。
それは、根底にあるプライドの問題。
その気になれば、プライドをかなぐり捨てることもできるバーチャだが、それだって、時と場合による。
ショデヒにインファイトを挑まれて、丁寧にいなすことなど、さすがに出来ない。
それをしてしまえば、自分自身の武の否定になってしまう。
だから、バーチャは、ショデヒと真っ向から殴り合った。
相手を殺すことが目的の一手など皆無。
ただ、ただ、どちらが上かを誇示しあうだけの殴り合い。
命のやりとりの場で、命のやりとりを忘れる。
『闘い』という本能に没頭する。
どっちが『強いか』を、暴力的なほど純粋に求め合う。
――その果てに、
「残念ながら、私の判定勝ちでしょうね」
数分をかけた殴り合の後に、
無傷のショデヒが、息を切らしているバーチャに、そう言い放った。
ギリっと、バーチャは奥歯をかみしめる。
バーチャは現実を認めないバカではない。
だから、ショデヒの言葉を感情だけで否定することはできない。
認めざるをえない。
バーチャは、後衛相手に、前衛の勝負を挑まれて判定負けした。
これは、真正面の屈辱。
度し難い恥。