9891話 バーチャとトウシを殺してこい。
9891話 バーチャとトウシを殺してこい。
「存在値7000万……はは……ははは……」
一気に膨れ上がった存在値。これまでは、破格装備に身を包んだ上で、『数百』が限度だった。
しかし、今のショデヒの数値は『7000万』。それが、ショデヒの新しい世界。
「こんなにも……眩しい……美しい……」
世界の色が鮮明になった。
神となったショデヒの目には、これまでには気づかなかった、いくつかの出会いが映る。
遠く、遠く。
新しい光。
「バリアブル・ミシャンドラ・クロート様、なんなりと、ご命令を。今の私ならば、それなりの事が出来るでしょう」
「お前に対し、最初に出す命令は決まっている」
ニタリと、黒く微笑み、
「バーチャとトウシを殺してこい」
★
クロートの命令を受けたショデヒは、
疑問や不安を抱くよりも前に、
すぐさま、行動を開始していた。
今の自分でも、バーチャや聖主には勝てない。
そんなことは分かっている。
自分が分かっている程度のことは、
クロートも当然理解しているだろう。
ならば、この命令には、何か裏の意図がある。
そう判断したショデヒは、
ただ命令にしたがい、行動をおこした。
最初に挑むのはバーチャ。
彼がいる場所は知っている。
今日も、今日とて、バカみたいに、訓練をしているはず。
その場所に乗り込んで、
ボコボコにして殺す。
出来るかどうかはどうでもいいから、とにかく実行する。
なぜなら、それが、クロートの命令だから。
現状において、クロートの命令は、真・神帝陛下の命令に他ならない。
ならば、命を賭して、実行しなければいけない。
「バーチャァアアアア!!」
バーチャを見つけるやいなや、
ショデヒは、問答無用で、バーチャの顔面に向かって拳をつきつけた。
不意をつかれたバーチャは、さすがに一瞬だけ、反応が遅れたが、
しかし、
「――神化っっ!」
神速の反応で、『ショデヒが神の領域にいる』と理解し、
『神』を制圧できるレベルにまで自身を昇華させる。
ショデヒの、あまりにも迷いのなさすぎるムーブに対し、
バーチャは、疑念を抱く暇もない。
ただただ、反射で対応する。
ショデヒは、もとの存在値がそれなりに高く、ゆえに、『神』の中では、そこそこ高いレベルに達している。
高いレベルの神――『数千万級』が、死に物狂いで暴れ回っているという状況。
もちろん、超神であるバーチャからすれば、いくらでも対応可能なレベル。
とはいえ、手を誤れば、ダメージは受けるレベル。
思考の介入をはさまない豪速のカウンターでショデヒの顔面をくだくバーチャ。
しかし、手に残る感触は空っぽ。
脳が、現状を、高速で処理する。
(――『高クオリティの擬態』をガン積みして、デコイとしての役目にリソースを裂いた、オーラドールですらない、ただの分身……奇襲に、パワーのないデコイを投入?! 本体は――)
死角からの唐突な奇襲だというのに、火力のないデコイを使うという、
あまりにも用心深い一手。
『バーチャが確定で対応してくる』――と理解した上での行動。
そこに込められている意味は、『是が非でも殺したい』という狂気的な殺意。
「――上か?!」
バーチャのセンサーに反応。
顔をあげると、すでに、ショデヒの準備は仕上がっていた。