9890話 開いていく。
9890話 開いていく。
これまでは、エルメスや、聖主など、ショデヒからすれば、『ものたりない親分』ばかりで、消化不良だった。
バーチャが『最強』だったら、なかなか悪くなかったのだが、
彼は、実際のところ、ヘタレの小物だった。
少なくとも、ショデヒが求める『理想の親分』ではなかった。
煮え切らないエルメス、ヘタレなバーチャ、邪悪さと言う点ではどこかハンパな聖主。
――ずっと、ずっと、消化不良で、ハンパで、
けど、それでも、ショデヒは、頑張って、前に進んできた。
その結果、ようやく、ショデヒは、出会えた。
求めてやまなかった理想。
「ありがとうございます。尊き王が誇る右腕ミシャンドラ・クロート様……あなた様に見つけてもらえた……その幸運に感謝を……心から……感謝を……っ」
感動して涙を流す。
ようやく、自分の居場所を得た――と、そんなことを思った。
その殊勝な態度を見たクロートは、
「感じるぞ、ショデヒ。貴様は、本当に、心の深部から、真・神帝陛下に心酔している。これまでも、何人か、使えそうなやつらを配下にしてきたが……貴様ほどの忠誠心を抱いた者は少ない。ほんのちょっと、陛下の偉業を見せてやっただけだというのに……貴様の理解力は、なかなか見る目がある。心から王を愛する者は、私の家族も同然。褒美をやる。楽にして、受け入れろ」
そう言いながら、ショデヒの頭部に手をあてて、
「――開け」
そう命じると、
ショデヒの奥の方が熱くまたたく。
パァア……
と、何かが開く音が、確かに聞こえた。
「お……ぉお……」
膨れ上がっていく。
自分の中で起きた革命を実感する。
脳汁があふれ出る。
感情の暴走。
ショデヒを構成している全てが沸騰していく。
細胞がまたたいて、命と魂が次のステージへと駆け上がる。
これまでは、『反り立つ壁』を、必死になってロッククライミングして、どうにか、こうにか、少しでも上へ、と上がってきた。
今のショデヒは、『高速のエレベーター』に乗っている。
自重を見失った豪速の引き上げ。
――ショデヒは、胸の前で手をあわせる。
そして、祈る。
尊き神に。
並行世界も含めた、全ての世界における完璧な頂点。
絶対なる神の王。
真・神帝陛下に、魂の祈りをささげる。
そして、つぶやく。
「――神化――」
自分には縁のない世界だと思っていた。
バーチャや、聖主のような、異次元存在だけの特権だと思っていた。
違った。
自分にも可能性はあった。
開く。
遠く。
届く。
喰らう。
リアルの死角でひらく自覚、
死活を威圧する煮立つ飛躍、
努力の鼓動で心躍るドール、
孤独の蟲毒が如くジョーク、
暗に遠くよそうアンコール、
幽か桜咲く修羅のトラウマ。
「ぁあ……」
恍惚の表情で天を見上げる。
「存在値7000万……はは……ははは……」
一気に膨れ上がった存在値。
これまでは、破格装備に身を包んだ上で、『数百』が限度だった。
しかし、今のショデヒの数値は『7000万』。
それが、ショデヒの新しい世界。
「こんなにも……眩しい……美しい……」