9885話 これ以上の慈悲はない。
9885話 これ以上の慈悲はない。
ホアノスは、恐怖心から、最後の抵抗をこころみる。
全力であがき、もがき、どうにか、クロートの手から離れようとするのだが、
しかし、クロートの筋力が異次元すぎて、抵抗が、まったく意味をなさない。
ホアノスは、白目になる。頭が動かなくなってくる。
ホアノスは、最後に、
「たす……けて……ごめん……なさい……」
ギリギリのところで、救援要請と謝罪を口にする。
そんなホアノスに、クロートは、
慈愛の笑みを浮かべて、
「もうすでに、十分、慈悲は与えてやっている。これ以上は過剰だろう」
などと、無慈悲な言葉をつぶやく。
続けて、
「私がその気になれば、闇色天国を発動させた上で、とことんなぶり続けることもありえる。『私』に対してゲスな感情を向けた貴様の罪を考えれば、闇色天国による拷問でも飽き足らないレベル。だというのに、ただ首をしめて殺すだけで許してやろうというのだ。これ以上の慈悲がどこにあるだろうか」
クロートは、そう言いながら、
さらに、首をしめる手に力を込めた。
そろそろ死ぬ――と誰でも理解できたところで、
それまで黙って趨勢を見つめていたショデヒが、
「あの、もうしわけないのですが……できれば、ホアノスさんは殺さないでいただきたいのですが」
どういう『切り出し方』をすべきか、少し悩んだものの、
この『控えめなスタイル』で『お伺いをたてる』という決断を下したショデヒ。
無数の可能性を頭の中で予測しつつ、
とりあえず『いったん下手に出ていく』という中間択。
「その人には、これから、色々と動いていただかなければいけないので……できれば……」
いうまでもない事だが、
ショデヒは、ホアノスのことを心配しているわけではない
死なれたら、利用できないから、壊さないでほしいと思っているだけ。
同じ悪魔であるクロートは、そんなショデヒの感情が正しく理解できたようで、
「無駄な心配をする必要はない」
「は?」
「このカスを利用して、国を混乱させる……そんなヌルい手を打つ必要はない。もっと壮大で、エレガントで、皮肉のきいた、素晴らしい力技で、世界を混沌の渦に巻き込む。それが私の目的だ」
「……は、はぁ……」
探るような返事の裏で、ショデヒは、
(……さて、どうしたものか……『存在値500以上のホアノス』を軽々といたぶっているところから鑑みるに、おそらく、この悪魔は、とんでもなく優れた力を持つ……)
ホアノスはカスだが、間違いなく優れた力を持つ超人。
この世界における最高格の化け物。
『聖主から破格装備をもらっている今のショデヒ』なら、造作もなく殺せる相手だが、しかし、ショデヒの元々の存在値は450程度であり、素の力で殺し合った場合、ホアノスの方が勝つ確率は非常に高い。
ホアノスは前衛型のアタッカータイプなので、『なんでもあり』のルールならば、搦め手タイプのショデヒの方が勝つ可能性は高いが、ガチンコの殴り合いを強制された場合、確定でホアノスが勝つ。