9877話 蛇であり続ける限り、魂は、ひもじいままである。
9877話 蛇であり続ける限り、魂は、ひもじいままである。
この手の人間は、自分自身の中にある邪悪さを正しく理解しているがゆえに、
どうしても、『他者の中』に『同レベルの蛇』を感じてしまうのである。
愛も情も、言葉の上では理解できるが、本当の意味では、理解する気がサラサラなく、ゆえに、からっぽの『尖った欲』に支配される。
何を手に入れても空っぽだから、ずっと、飢えて、渇いている。
『国の中枢にくいこめるほど狡猾』ということは、
事実、それなりに賢いはずなのに、
『蛇であり続ける限り、魂は、ひもじいままである』という、
『その事実』にだけは、どうしても気づけない。
(ここからは、冷静かつ精緻な立ち回りが必須……私の『完全なる一人勝ち』のために、なすべきことは――)
ビンビンになっている頭脳が、多角的な思考で、多くの未来(自分が独り勝ちしている夢のような未来限定)を予測する。
そんな中、ショデヒが、一見『人当たりがよさそうな笑み』を浮かべて、
「どうでしょう、ホアノス議員。悪い話ではないとおもいますが?」
そんな彼の言葉に、
ホアノスは、あえて、渋い表情を浮かべ、
少しだけ時間をとってから、
「国を売るようなマネはできんな」
と、『歩み寄る余地がありそうな声音』でそう言う。
『完全な拒絶の色』は込めない。
なぜなら、話し合いをする気はあるのだから。
その意思表示を、相手に掴ませなければいけないから。
――その意図は、『詳細の提示要求と、旨味の底上げ』である。
『儲け話にホイホイ乗ってきたバカ』を演じるホアノス。
モナルッポほど巧みではないが、なかなかサマになっている。
「私は、祖国を愛している。大事なことは、私個人の利益よりも、国が、民が、最大限の幸福を得ることである」
毛ほども思っていないことを口にするホアノス。
彼にとっては、国も、民も、すべて道具、
欲を満たすための一要素にすぎない。
重要なのは、いつだって、自分が『最大限の利益』を得ること。
欲しいのは、地位と名誉と財産と、そして、もっとも大事な、『歪んだ欲望のハケ口』である。
だが、そんなことは表情には出さず、
「ゆえに、その交渉には応じられない」
と、『交渉の余地があるトーン』でそう言った。
ここまで、巧みな思考誘導が出来る議員が他にいるだろうか――と、ホアノスは、自分の交渉術の精巧さにウットリとする。
そんなホアノスに対し、
ショデヒは、
「ホアノス議員。今回の交渉によって生じるメリットは、あなた個人の利益だけではなく、国全体の発展につながるものと確信します」
「ほう。興味深いな。続けろ」
「……領土の割譲に応じていただけるのであれば、ホアノス議員に対して優先的に魔カードをお譲りするという条件だけではなく、ホアノス議員が、国家主席になれるよう、バックアップすることもお約束させていただきます」
『悲惨な未来を回避する術を持たないバカ』が敵国の中心にいる。
――侵略していく上で、これほど有利な状況はない。
だから、ショデヒは、慎重に、丁寧に、交渉を進めていく。