9873話 ホアノスとショデヒ。
9873話 ホアノスとショデヒ。
「――おひさしぶりですね、ホアノス議員」
ここはトーン共和国。
最高位上級国民であるホアノスの豪邸。
――その離れ家。
聖龍王国の使者『ショデヒ』は、
それなりの身分に位置する者だが、
『しょせんはモンスター』と侮られているため、
母屋に通されたことはない。
そういう細かな差別に対して、ショデヒは、普通にイラっとしているが、
しかし、それを顔に出すほど愚かしくはない。
「それで? 今日はなんだ? 魔物の女を殺すのは、もう飽きたんだが?」
ホアノスの尊大に態度にも、普通にイラっとするショデヒ。
ホアノスは、『自分よりも下』と思った相手に対しては、
とことん、不遜な態度を貫く、器ペラペラの純粋差別主義者。
「今回は、正式に、国の使者としてまいりました。とはいえ、表立って交渉するわけにはいかない内容ですので、これまでと同じく、裏口から潜入させていただいたわけですが」
「国の使者……ふむ。で?」
「実は、聖龍王国で、革命がおきまして。トップが、エルメスではなくなりました」
「……それは、つまり……エルメス以上の化け物が誕生したということか? それとも、お前が、大規模な反乱軍をつくり上げたとか?」
「前者が正解でございます。聖龍王国に、新しい化け物が誕生しました。とてつもない力を持つ王の誕生。我が王の力は、ドーキガン・ザナルキアやゾメガ・オルゴレアムを超えております」
「ふっ……」
と、ホアノスは、一度、鼻で笑ってから、
「勇者も魔王も『真なる化け物』だ。あれ以上の生命体など存在しない」
「しかし、事実です」
ゆるぎない態度を魅せるショデヒの顔を見たホアノスは、
(……間違いなくハッタリだ。その新しい王とやらが、本当に、エルメスを実力で玉座から引きずり下ろしたのであれば、確かに、驚異的な力を持つと言えるだろう。しかし、勇者と魔王を超えるということはありえない。あの二人は常軌を逸している)
それが、この世界における人間の常識。
その二人がハイエンドである――この事実が覆ることは、この世界に生きる人間の常識的にありえない。
――あってはいけない。
(勇者や魔王以上の脅威――その『ありえないハッタリ』を決め込んできた理由はなんだ?)
ホアノスは、最低最悪の幼女趣味チ〇カス野郎だが、
しかし、『巨大な列強の最上位者』に上り詰めたほどの有能さは有している。
だから、頭は非常によくまわる。
(……いくつか予想はたてられるが、情報不足すぎて、まだ、全体像が見えてこないな……もう少し、話を進める必要がある……)
頭の中で、これからの交渉に対する算段をつけつつ、
「それで、ショデヒよ。今回、お前がもってきた、正式な国使としての交渉の内容とは?」
「単刀直入に言います。――ルース平野までを、聖龍王国の領土とすることを認めていただきたい」
ショデヒの言葉を、ホアノスは、しっかりと咀嚼していく。
これまで、何度か商談してきているので、ショデヒが『ただのバカではない』ということは理解している。
ショデヒは、出自がモンスターであるゆえ、
人間至上主義者のホアノスは、彼のことを、普通にしっかりと見下しているが、
しかし『多少、頭がまわる』という事実から目を背けるほど愚かではない。
愚者は愚者なのだが、最低限の知恵はまわる愚者なのである。
「……ずいぶんと、ふざけたことを言うじゃないか。ショデヒよ」