表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

403/1228

最終話 画竜点睛。


 最終話 画竜点睛。


 ――ザンクは、全身全霊をかけた。

 『必死のおしゃべり』で時間をとことん稼ぎながら、とにかく、今の自分にできる全部を賭して、『完璧なコピー』をつくりあげた。

 『バレないだろうか』と、かなり不安だったが、蝉原の態度を見る限り、問題はないだろう。



 ――ザンクは、この作戦を思いついた時、『本当に実行できるだろうか』という点でもかなり不安を感じていた。

 『限りなく不可能に近い』というのが、ザンクの解答だった。

 しかし、ザンクはやりとげた。

 自分自身の壁を超えて、不可能の領域に足を踏み込んだ。



 ここまで、ずっと『コピー能力』ばかりに注力してきたのが幸いした。



 『産まれからして生粋の贋作の贋作』であり、

 かつ、贋作の技能ばかり磨いてきたザンクは、

 ついに、贋作の技能で、邪神を欺いてみせた。


(……蝉原に掴ませた『テラスのカケラのコピー』は、ほぼ本物と変わりない……いやぁ、しかし……俺、よく、あの短時間で、あれだけ精巧なニセモノがつくれたなぁ……人間の追いつめられた時の爆発力、エグいなぁ……)


 火事場のクソ力で、潜在能力をフルで稼働させた。

 その結果、成し得たのは、『ヤクザの神に贋作をつかませる』という偉業。


(まあ、これで終わりではないけど……というか、ここからが大変。回収できたのはカケラだけ……『大半が奪われとる』という事実に変わりはない……)


 『センテラスをセンテラスたらしめるため』の『最も重要なピース』だけは、

 どうにか、回収することに成功したのだが、

 しかし、『それ以外のすべて』が、今もなお、蝉原の手の中にある。

 だからこそ、騙せているというのが事実。

 何もかもすべて贋作だったら、さすがに騙せない。


 ザンクが回収し、コピーしたのは龍の瞳。

 蝉原が奪っていったのは、文字通り、画竜点睛を欠くセンテラス。


 『もっとも大事な部分』だけはザンクの手元に残った。

 しかし、逆に言えば、それ以外の全部が奪われてしまっているということ。


 『センテラスを完全に復活させるため』には、

 蝉原から、『テラスの全て』を奪い取る必要がある。


(……必ず取り戻す……田中家の人間が有する、『パートナーに対する執着心』をナメんなよ……)


 奥歯をかみしめて覚悟をかためる。


 蝉原は、強大な邪悪。

 膨大な力を持つ魔王。


 全部わかった上で、ザンクは、立ち向かうと決めた。

 その心意気は、まぎれもなく『勇者』の覚悟。


(ここから先は、下手に動けん。細心の注意を払う必要がある。蝉原にバレんように……確実に、蝉原の『裏』をかくために……)


 ザンクは考える。

 必死になって最善手を考える。


(テラスを救うためなら、俺は、何でもする。他の全部が死に絶えることになろうとも……ほかのすべてを失うことになろうとも……絶対に、俺は、テラスを取り戻す……)


 バキバキの決意をかためていると、

 その途中で、ふと、



(……しかし、まあ、ずいぶんと、『不自由』になったもんやなぁ……)



 『しがらみだらけになった自分の現状』を想い、

 じっとりとした自嘲がこぼれた。


(ちょっと前まで、あんなにも自由やったのに……今のザンクさんはどうや。義務と責務でがんじがらめ。まるで、嫁子供+家車のローンを抱えた、ブラック企業勤務の社畜のようやないか)


 『そんなダルすぎる地獄を、自ら背負うやつらの気がしれない』――そう思って生きてきたが……実際、その立場になったザンクは思う。


(……こんなダルすぎる地獄を、自ら背負うやつの気がしれん。アホちゃうか、ホンマ)


 と、心の中で、自分自身をバカにする。

 『気が知れない』という部分に対しては、今も全く同じ感想。


 事実、今も、『自分の選択』を、心の底から愚かだと思う。

 頭が悪すぎる。

 『何も考えずに十代で出来婚する』ような、そこらの馬鹿ヤンキーよりも愚か。


 そう思うのだが、

 しかし、

 この、愚かしい荷物を棄てる気にはならなかった。

 いますぐ棄てさった方が、遥かに合理的で楽になれる、

 と、頭の中では、100%理解できているというのに、

 『この荷物だけは、何があっても、絶対に棄ててやらねぇ』

 と、心の奥底にある何かが叫んでいた。



(……厄介な話やで、ほんま……勘弁してほしいわ……)



 最後に、心の中で、そうつぶやいてから、

 ザンクは、この空間から抜け出した。


 タナカ・イス・ザンクの、『本当の闘い』が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ