39話 悪魔の鏡。
39話 悪魔の鏡。
「――『マフツノカガミ』や『天照大鏡』は、テラスが軸にならな使えんスペシャル。ザンクさんだけやったら、どっちも使えん。メモリ不足ってやつやな」
「そうだね。それだけの高位スペシャルを使える器は、今の君にはない」
「けど、コピーを使う手法は、この場において、絶対的条件……そんな色々を踏まえた上で……必死に頭を使って、可能性を模索した。その結果、ザンクさんの中に、『天照坐皇大御鏡を使った』という『事実に対する記録』が『残っとる』ことに着目し……そのデータをバグらせて、自分の中に顕現させてみた」
もはや、意地でも正攻法を求めないザンクさん。
裏技・バグ技・卑怯技、全部を全力で駆使して、
違法に、異端に、自由に、世界を翻弄していく。
『その生き方では得られないもの』もあるが、
しかし、『正攻法の系統』の『正当な力』は、
――『閃』や『トウシ』に任せればいいのだ。
田中ザンクは、田中ザンクにしか出来ない生き方をすべき。
田中ザンク本来の生き方でしか得られないものを追及すべき。
その果てにある未来だけを貪欲に求めるべきである。
「かなりの面倒な作業を必要としたけど……なんとか、出来た……ザンクさんは、トウシと比べれば凡人やけど……一般人と比べれば、間違いなく天才やったという話」
「一般人よりマシなことは、自慢にならないんじゃないかなぁ」
「ならんな。別に自慢しとるわけやない。事実を口にしとるだけ」
そう言いながら、
ザンクは、自分の奥にもぐりこんで、
「ザンクさんだけの鏡――『テスカトリポカ』よ。蝉原勇吾を映し出せ」
自分の中の可能性、プラチナスペシャル『テスカトリポカ』に命令する。
すると、ザンクの中から、『小さな手鏡を持った、手乗りサイズの悪魔』が這い出てくる。
テスカトリポカは、ザンクの命令に従い、
その手に持っている小さな鏡を、蝉原に向ける。
そんなテスカトリポカを観察しながら、
蝉原は、
「テスカトリポカねぇ。知らないな。見たことがないタイプの悪魔だ。汎用モンスターの外装は、だいたいすべて把握しているんだが……んー……ファイアゲートに、ちょっとだけ似ていなくもないけど……『似ていなくもない』ってだけで、『似ている』とは言えないレベルだねぇ。どっちかというと、『悪魔っぽい虫』って感じだしね。キラークイーンとファイアゲートを足した感じ……と言えなくもないけど、さすがに、それは、ちょっとムリヤリすぎるかな」
軽やかに所見を述べつつ、
蝉原は、
「スペシャルが生命体っぽく具現化するってのも、なかなか珍しいね。色々と、オリジナリティを魅せてくれるじゃないか。……まあ、君の場合、『珍妙なだけで、中身が伴っていない』というパターンである可能性が高そうだけどさ」
などと、丁寧な煽りもいれながら、
『何がどうなるのか』と思いつつ、
数秒ほど蝉原は待ってみたのだが、
「……その鏡に、俺が映ってから、もう、そこそこの時間が経ったけれど……俺か、君に、何か変わったことは起きたのかい? 俺の感覚的には、何も変わったように感じないんだけど……それは、俺の感覚器がバグっているからかな?」