37話 タイム。
37話 タイム。
「俺はヒーローやない……それでも、叫び続ける勇気を……」
テラスと比べれば、ちっぽけな勇気を……
しかし、それでも、叫び続けると誓う覚悟を……
「ぶっこわれて、ゆがんで、くさって……それでも、なくさんかったもんを……全部……集めて……っ」
結集していく。
想いと覚悟を抱きしめて、
未来を奪い取ろうと牙をむく獣。
スゥと、ふかく息を吸って、
まるで、陰陽道の真髄を体現するような、
ピンと指を伸ばしたシルエットが美しい、
『格好いいだけのポーズ』を取りながら、
「――悪鬼羅刹は表裏一体。俺は独り、無間地獄に立ち尽くす。きっと、ここは幾億の夜を越えて辿り着いた場所。さぁ、詠おう、詠おうじゃないか。盲目な真理に酔いどれる、賢しらなピエロの詩を。たゆたう銀河を彩りし、オボロゲな杯を献じながら」
そんな、奇妙な様子のザンクを見た蝉原は、
「コール? ……ここで? ソレに、いったい、なんの意味があるのかな?」
問いかけに対し、ザンクは、
ニィっと、自由な笑みを浮かべて、
「――特に、意味はない」
あえて、とことん、楽しそうに、そう言い捨てる。
『重さ』を棄てていく。
『そんなもの』は、ザンクさんにとって不要。
どんな時でも、飄々と笑え。
そう自分に命令を下す。
念気微笑。
絶望を前に笑える胆力は、敵を気圧す。
狂い咲いた笑顔は、閉鎖的な地獄を怯ませる。
『自由に囚われて不自由になる』
そんな鎖を引きちぎって、
『世界で一番不自由』という自由をつかみ取る。
――『くだらない言葉遊びだ』と、
自分自身の心情を心の中で笑いながら、
それでも、ザンクは、たくましく、前を向いて笑う。
「意味だの、道理だの、責務だの……そんなもんに縛られて生きるほど、ザンクさんの人生は不自由やない。そんなもん全部ブチ捨てて、自由に、優雅に、孤高に、思うがままに生きていく。それがザンクさんの生きる道!」
「主義思想は好きに抱いてくれればいいけれど、君はここで死ぬから、その道に先はないよ」
「分からんやっちゃなぁ。ザンクさんは、そういう、悪意や殺意の不自由からも解き放たれた『真に風雅』な風来坊。ザンクさんを殺すことなんか、そうそう出来ん。少なくとも、おどれごときには絶対に不可能」
「くく。言うじゃないか」
楽しげにわらってから、
右手をザンクに向けて、
「では、試そうか」
少しだけ魔力をためていく。
別に、ためなくてもいいのだが、
この方が『死』を理解させやすいと思ったから、
あえて、無駄にためてみた。
こういうところが、蝉原の悪意の本質。
コレは、ヤクザの入れ墨みたいなもの。
ファッションではない覚悟。
『伊達』と『メンツ』と『見栄え』と『威圧』をことさら大事にするアナーキー。
「田中・イス・ザンク。これから、今の君では絶対に耐えられない異次元砲を撃つけど……それでも、君は死なないんだろう? 君ごときが、どうやって生き残るのか、楽しませてもらう」
そう言った蝉原に、
ザンクは、右手を向ける。
その様子を見た蝉原は、フラットな声で、
「ん? もしかして、君も異次元砲を撃つ気かな? その一手は、さすがに悪手だと思うけれど?」
「ちゃうちゃう。これは、『タイム』のサインや。異次元砲を撃つんは、ちょっと待ってくれ」