36話 俺はヒーローやない。
36話 俺はヒーローやない。
(死の規定ルートから外れたテラスの魂は、一時的な避難場所として、蝉原の中を選んだ……この選択は、はたして、ただの行き当たりばったりか? それとも……)
ザンクは、鋭い思考で、『彼女の行動の真意』を求める。
そこには、彼女に対する、とびきりの『ひいき目』が加味されていた。
だから、どうしても『最高クラスの評価』をくだしてしまう。
これは仕方がないこと。
(……いや、行き当たりばったりなんかやない。絶対に違う。最初から、あいつは、そのつもりで絶死を積んだ……コスモゾーンから受け入れ拒否されることも想定した上で、蝉原に一矢報いる算段をつけた……)
おそろしいほどのハロー効果と、
ドーパミン&ノルアドレナリンの大量分泌、
そのコンボからくる『アバタエクボモード』が豪快に炸裂。
(俺なら……この『ザンクさん』なら……その『布石』をうまく使えると計算した上で……)
――相手がテラスだったから、ただの『盲目』では終わらなかった。
ザンクの、彼女に対する、なかば『こうであってほしい』という願望は、
実のところ、事実だったりする。
センテラスは、この世で最も美しい女。
命がけで愛するに値する最高位の女神。
熱くなっているザンクは、
そこで、自分自身に『極端な冷静さ』を課した。
ただの感情論で突っ走ってミスるわけにはいかない――そんなプライドも作用した。
自分を俯瞰でみて、自分の推察が正しいかどうかを確かめようと頭をまわす。
その果てに、
『そうでなければ説明がつかない』という検算の結果を受け止めたザンクは、
(……ほんまに、世界一の変態やな……あのバカ女……)
つい、気の緩んだ破顔をしてしまう。
自分を取り繕うことができないほどの幸福感にひたる。
『世界一の女に出会えた』という興奮と喜びが止まらない。
『トウシに勝てないこと』が、本当にどうでもよくなってくる。
いや、嘘だ。
心の奥では、ずっと、ジュクジュクしたものがある。
けれど、事実として、その『上』に、
センテラスに対する想いがあった。
これまでは、何があっても、トウシに対する感情がトップで、ゆるぎなかった。
しかし、今日以降、トウシに対する感情がトップに返り咲くことは決してない。
その嫉妬や屈辱が、『完全になくなる日』は永遠にこないけれど、
しかし、それ以上の永遠性をもって、
センテラスが、ザンクの心を照らし続ける。
(……絶対に回収する……ザンクさんの全部を賭ける……ザンクさんだけでは足りんというのなら、親戚も、閃光も、魔王も、勇者も、邪神も、使えるもんを全部つかって……必ず……っ!)
そこで、ザンクは、自分の両手で、自分の頬を、バシィィンと、かなり強めに、シバき上げる。
真っ赤になった頬が、ヒリヒリと痛む。
赤みはすぐに引くけれど、この熱は、きっと、永遠に上がり続ける。
ビリビリとした痛みの中で、
――無理矢理にでも、受け取ってもらう……ザンクさんの、この、狂ったような愛を――
覚悟を決め直す。
その結果、ザンクの中で、一つの革命が起こった。
「俺は……ヒーローやない……」
自然と、言葉があふれた。
感極まった無意識の暴走。
勝手に、言葉が口をつく。
「それでも、叫び続ける勇気を……」
テラスと比べれば、ちっぽけな勇気を……
しかし、それでも、叫び続けると誓う覚悟を……
「ぶっこわれて、ゆがんで、くさって……それでも、なくさんかったもんを……全部……集めて……っ」