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33話 センテラス、死す。


 33話 センテラス、死す。


「どうしたのかな? 閃くん……何か、とっておきがあるのなら見せてくれ」


 そんな蝉原の言葉に、テラスは、ニコっと、太陽のように微笑んで、

 蝉原の腹部に、拳をあてたまま、


「……私の全部を奉げる。これまでの全部を」


 その表情は、『悟りを開いた修行僧』のようでもあったが、

 しかし、きっと、彼女は、その表現を好まない。

 なぜなら、悟りなんて開いていないから。

 『悟った気になるだけの勘違い』に溺れるほど、今の彼女はつたなくはない。


 『彼女』は知っている。

 悟りなんて存在しない。

 命は永遠に完成しない。

 だからこそ美しいのだ。




「……たくしたぞ……ザンク……」




 そんなことを言われても困る――と、ザンクは必死に抵抗していた。

 彼女が何をする気なのか、それがなんとなくわかっていたから、彼女の中で、とにかく、必死になって抵抗していた。

 必死に頭を働かせて、

 彼女を失わずに済む手を考えた。


 もはや、ここまできたら『頭が働かないよ、うぇーん』などと泣き言は言っていられない。

 必死になって、頭が爆発するほど、脳を回転させた。


 しかし、届かなかった。

 なぜ、こんな時に届かないのだ、と、自分自身の無能を恨む。

 トウシなら届いたんじゃないか?

 なんて、無意味な自己嫌悪が襲ってきそうになる。

 『トウシのことなど考えている場合か』と自分自身をしかりつける。


 そうやって、どうにか、トウシのことを頭の中から除外したところで、

 別に、何かが閃くというわけでもない。

 何もできない。

 何も思いつかない。


 物語なら、こういう時に、覚醒するのではないだろうか。

 そんな、くだらない言葉で自分をたきつける。

 でも、結論は一緒。


(大事な女が死にかけとるんやぞ! 俺も『田中』やろ! てか『男』やろ! こういう時に、一番力を発揮するんちゃうんか! なんで、こんなぁあ!)


 なぜ、届かない?

 この世界はリアルだから?

 そんな言葉遊びはどうでもいい。

 そんなことはどうでもいいから。


 ――とにかくやめてくれ。

 ――死ぬな。

 ――お願いだから。


 ――俺の前から消えないで――



 もう、彼女なしでは生きられないのに、

 それなのに――



 言葉が洪水のようにあふれ出て、

 これまでの人生で最速の回転数で脳が回っているのに、


 けれど、何も出来ない。


 己の無力を呪う。

 その行為にすら意味はない。


 ザンクの意識の表層で、

 テラスは、


「――っ――」


 大量の血を吐いて、

 真っ白になって、

 そして、そのまま、



「……テラス……」



 『完全なる死』を受け入れると同時、

 ザンクが、肉体の表層に浮かび上がる。


 その時には、もう、すでに、テラスは、この世に存在していなかった。


 視界が白黒になる。

 脳にも目にも異常はないのに、

 心が狂って、色が死んだ。


「……テラス……」


 膝から崩れ落ちるザンク。

 『禁止魔カードに力を奪われた』ことなど、

 この時ばかりは、どうでもよかった。


 そんなことよりも、

 テラスを失ったという極大の喪失感で、

 心が砕け散りそうになっている。

 いや、きっと、もう砕け散っている。


 だから、こんなにも、目がうつろで、

 真っ白で……


「閃くんは死んだのかい?」


 蝉原に問われているが、

 答える気にはならなかった。


 黙っていると、

 蝉原は、



「そうか……絶死を積んで暴れるのかと思ったけど……そっちじゃなかったのか……では、どういうことだろう? 閃くんは、絶死を積んで、何をした? ……んー……わからないな。まさか、本当に、田中ザンクにたくした? いや、それはないよねぇ? だって、それは、さすがに悪手だって、誰でも理解できることだから。閃くんだって、分かるはずだ。それが分からないほど、彼女はバカじゃない」


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