31話 ちょっと何言っているか分からない反骨精神。
31話 ちょっと何言っているか分からない反骨精神。
ザンクが震えていると、
そこで、テラスが、
(……あんたは、田中トウシに匹敵する器……もしかしたら……田中トウシ以上になれるかもしれない可能性……そう感じた、私の予感を信じてみたくなった……自分のワガママを貫いた……それだけ……)
などと、ちょっと何言っているか分からないことを口にする。
ザンクは、彼女の言葉を真剣に聞いていた。
一字一句聞き漏らさないように注意した上で、
すべてを完璧に聞き取った上で、
その言葉の意味を理解しようと、
必死になって頭を回した――しかし、
「お前……ナニ言うとんの?」
マジで、何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
いや、もちろん、『表層的な意味』ぐらいなら分かる。
ザンクに可能性を感じた。
だから、守ろうと思った。
それは、自分のワガママ。
――うん、OK。
なるほど、わからん。
「トウシに匹敵すると言われて、嬉しいけど……俺は……トウシ以上にはなれん……並ぶんも不可能や……」
彼女のことが怖くなって、
ついに、ただの本音をブチまけるザンク。
弱さと脆さを隠して生きてきたが、
もはや、かばうのも限界になってきた。
だから、
「俺なんか、守る価値はないから……もうええて……もう苦しむな……もう、マジで見てられへん……しんどいねん……ここまで頑張ってくれて、ありがとう。もう、十分やから。呆れるぐらい、やってくれたから。大事なもんをたくさんもらったから。だから、もう、一緒に死のうや……その方が絶対に楽やて……もう、ほんまに、もうええ……『大事な女』が『自分のせいで地獄を見とる』とか……なんで、今の俺、こんな阿鼻地獄状態になっとんの? そんな悪いことしてへんで、俺……いや、マジで……」
これまでとは真逆で、弱さと脆さをむき出しにして、
必死に、泣き言を口にすることで、
どうにか、テラスの変態性を封殺しようとするザンク。
そんなザンクに、
ザンクの中にいるテラスは、
ニっと、力強い、快活な笑みを向けて、
奥歯をかみしていることすら悟らせない、異次元の胆力で、
(――この程度の絶望なら、これまでの人生で、何度も経験してきた。いちいち、回数は覚えていないけど……1000回は普通に超えている)
「……」
(1000回以上経験していることなんて、もはや、ただの日常の一風景に過ぎない。つまり、この状況は、私にとって、『昼下がりのコーヒーブレイクとなんら変わらない平穏なもの』なんだよ)
あくまでも、ワガママを貫き通そうとするテラス。
狂気の笑顔は、砂漠の花のように咲き誇っていた。
(いいようにされっぱなしなのは、単純に腹立つから、飽くなき反骨精神で、1001回目の絶望に向き合う。ただそれだけのこと。私が私のためにやっていること。昼に一杯コーヒーを飲むことを、『コーヒーは体に悪いから、やめろ』と言われても、『うるさい、こっちの勝手だ。一杯ぐらいなら、むしろ、ポリフェノールでアンチエイジングと美肌効果があるから、飲んだ方がいいまである』としか思わない)