28話 いつだって、閃くんだけが別格。
28話 いつだって、閃くんだけが別格。
思考力も大幅に低下していた。
一週間ほど飲まず食わずでフラフラの状態――と表現すれば、
今のザンクの状態が少しはご理解いただけるだろうか。
(あかん……マジで、一ミリも力が入らへん……やばい……まともにモノを考えることも……できん……)
なんだったら、もう『さっさと死にたい』とすら思うほど、
今のザンクは、枯渇・疲弊・衰弱しきっていた。
(頭が動かん……クソが……考えろ……どうにか……頼むから、動いてくれ…………ぁ、あかんっ! くそぉ! ぼけがぁ!)
涸れ果てた気血。
カサカサの体躯。
グリコーゲンの余剰がゼロになる。
ATPが枯渇する。
そんな、『死にかけの老人』よりも疲労困憊・青息吐息なザンクに、
蝉原は、
「あれ? なんで、消えないのかな? このまま、完全に奪われて、『残滓』以外はすべて消え去るはずなのに……」
そう言いながら、
ゆったりとした歩調で、ザンクに近づいてきて、
興味深そうな目で、ザンクを観察する。
「……ああ、なるほど。『君の中』にいる閃くんが、ギリギリのところで、踏ん張っているのか……いやぁ、さすがだよ。閃くんは、いつだって、別格だ……本当に美しい」
そう言いながら、
ザンクの方に手をあてて、
「田中ザンク。『君だけ』だったら、とっくの昔に、『俺が回収する予定の残滓』以外、すべて完璧に消滅していたところ。最後の最後に、会話できるチャンスをもらえたこと、閃くんにお礼を言うといい」
「……」
「しゃべることさえまともに出来ないか……まあ、だろうね。だって、完全に奪い取ったんだもん。逆に、なんで、肉体が残っているのか不思議なレベル」
そう言いながら、蝉原は、ザンクの中にいるセンテラスの状況を読み取る。
「……ふふ……閃くんは、本当にすごいなぁ……」
と、楽しそうにつぶやいてから、
ザンクの目を見て、
「なあ、田中ザンク……今、君は、そうとうしんどい気分だろうけれど……そんな君の、ザっと100万倍ぐらい、君の中の閃くんは辛い状態にあるんだよ?」
「……ぇ……」
その衝撃のおかげ――というのもアレだけれど、
とにもかくにも、ザンクのうつろな目は、
そこで、はじめて、蝉原の目をシッカリととらえた。
「君を支えるため、君の『無価値で無能』な『ちっぽけな命』を残すために、閃くんが何をしてくれたのか……君は理解できていないだろう。罪深い話だと思わないか? 閃くんが、『君なんか』のために、頭がおかしくなるほど苦しんでくれているのに、それを、君は、一ミリも理解していない」
「……」
「――『閃くんの状態』と比べれば『てんで、たいしたことのない、そのしょっぱい衰弱』を、まるで、『ものすごく大きな絶望』みたいに大事に抱えて、うれしげに、うつむいてさぁ。まるで、『自分は世界で一番不幸だ』みたいな顔をして、楽しそうに『死にたそう』にまでしている始末。……ふだんの俺なら、君みたいな『情けない男』を見た時、小ばかにしながら鼻で笑うんだけど……ここまでくると、もはや、笑えないよね」