27話 かごめかごめ。
27話 かごめかごめ。
「すでに使用許可は下りている。戦闘に入る前から、申請していたから。普通はそんなこと出来ないのだけれど、まあ、特別な状況っていうのは、どのタイミングにも存在するわけで……ま、なんでもいいけれど、とにかく、そういうわけだから、ばいばい」
蝉原は、軽く、手を振ってから、
「――かごめかごめ――」
つぶやきながら、禁止魔カードを破り捨てた。
――すると、
「うぐっ!」
ザンクの体から、力がゴッソリと抜け落ちていく。
「な、なんや……えぇ?」
極度の脱力。
全身の奥から、魂魄を引っぺがされるのを感じた。
『鞄の中に押し込んでいた有線イヤホン』ぐらい絡みついていた『心と体』が、丁寧にほぐされていく。
(な、なんで……なんも抵抗できん……っ……なんっでやねんっ! 俺、簡易版とはいえ、究極超神化8になってんねんぞ! 最強の融合闘神『センキー』を抱えてんのやぞ! それやのに、禁止魔カード一枚に逆らうこともできんのかい! ええかげんにせぇよ! 覚醒、意味ないやないか! 禁止魔カード、無敵で万能すぎるやろ!)
あまりにも不自由な現状に、怒りがこみあげてくる。
果て無く自由だった『頭の中』さえも、
よく分からない『黒』が浸食してきて、
たまらなく不自由になっていく。
//ここで、あえて、禁止魔カードは万能でも無敵でもないということだけ明言しておく。『かごめかごめ』が特別すごいわけでもない。この状況においては、蝉原のゲームメイクが完璧すぎたというだけ。最初から一貫して、この状況をつくるために、すべてを計算し尽くして準備を万端にした上で、行動を起こした。だから、逆らえないというだけ。ちなみに、ザンクが『禁止魔カード返し』を行おうとしても無駄。ザンクは、すでに、並列思考で、それを試しているが、当然のように不可能だった。『蝉原の世界』がザンクの抵抗を予測してあらかじめ『封殺』していたから。蝉原の準備は抜かりない。完璧な計画を携えて、蝉原は、ザンクの前に立っている//
「――『蝉原勇吾渾身の切り札』に歯向かえるだけの運命力なんて、君にはないよ、田中ザンク。そこそこマシなあがきは見せてくれたけど……『本当の絶望』を乗り越えるには、その先の力が必要になってくる。君にそれはなかった。それだけの話なんだ」
「ごちゃごちゃうっさい、ぼけぇえええ!」
必死に抵抗を試みる。
目覚めた力をフル稼働させて、
『8に届いた可能性』の底力を魅せつけようとする。
だけれど、どんどん、しぼんでいく。
動けない状態のまま、どんどん、体の表面を削り取られているみたい。
感じる。
自分が小さくなっていく。
どんどん、力が抜けていく。
「ソンキーっ! おいっ! おらんのか?! どこいった? え?! 消えた?! うそやろ!」
大きな切り札でもあるソンキーも失った。
――そして、ほんの数秒で、
ザンクの肉体を覆っていた『たくましいオーラと魔力』も、完全に抜け落ちて、
その全てが、蝉原の核に注がれていく。
「……ただの片鱗……だが、間違いなく『8のカケラ』……綺麗だ……」
などと、そんなことをつぶやきつつ、
蝉原は、奪い取った『ザンクの全部』を、
手のひらの上に集約させて、
まるで、宝石を手に入れた少女のように、うっとりと眺める。
そんな蝉原の向こうには、
カラカラになったザンクがうなだれていた。
(やばい、ほんまに全部なくした……ていうか、普通に体が……動かん……)
立つ力さえ失って、へたりこんでいる。
立ち上がる気力は失っていないが、
しかし、エネルギー関連の『すべて』を奪われてしまったため、
足にも腕にも力が入らない。
もっと言えば、思考力も大幅に低下していた。
一週間ほど飲まず食わずでフラフラの状態――と表現すれば、
今のザンクの状態が少しはご理解いただけるだろうか。
(あかん……マジで、一ミリも力が入らへん……やばい……まともにモノを考えることも……できん……)