23話 月が綺麗ですね。
23話 月が綺麗ですね。
ギリっと、奥歯をかみしめるザンク。
言葉が、自分を縛り付ける。
「そんなダサいザマを晒すぐらいなら、別に独りでも構わんと思っとった時期が……ザンクさんにもありました……」
ファントムトークではない。
ただの、まっすぐな言葉。
――蝉原は、
「だから?」
その問いかけに、
ザンクは、
ニっと、笑って、
テラスに視線を向けて、
「――お前の中に瞬く『月光』は、世界で一番綺麗やな、センテラス」
そう、『想い』を宣言した直後、
ザンクの中で、『すべて』が沸騰した。
「――幾億の……刃のように、冷たい涙……必死になって飲み干しながら、無限の痛みを心に背負い、それでも、お前は、闘い続けてくれた」
言葉が、湧き出てくる。
そこに、何の意味があるか。
そんなことはどうでもよかった。
「……絶対に失いたくない業を……それを抱えて生きる咎を……狂おしいほどの戒めを……全部……あつめて……」
言葉遊びに意味はない。
全部理解している。
なにもかも全部、分かった上で、
ザンクは、
「……狂愛のアリア・ギアス、発動……」
宣言し続ける。
言葉に出して形にする。
質量をもった概念が、
ザンクの全てを推し上げていく。
――そんな、ザンクの覚醒を見て、
蝉原は、
「想定外だな……本当に……それは……あまりにも……」
表情が曇る。
余裕が全て吹っ飛んだ。
余裕がなくなっただけではなく、
嫉妬の炎が、目にともる。
「……どうしてだ? なぜ、君ごときが、『そこ』に届く? そんなわけがない。それほどの器ではない。君は、ただの劣化版……届くはずがない」
「自分でもそう思っとったよ。しょせんはただの劣化版。何者にもなれないチンケなレプリカ。……『そうではない』と思いたくて頑張ったけれど、頑張るだけなら誰でも出来ると、己を卑下してみたりもしつつ……そんな俺の中に残っとった『ちっぽけな可能性』を、たった一人、信じてくれたバカ女がおった。そのバカ女は……己自身ですら信じきれんかった器を、最大級の言葉で認めてくれた」
『田中ザンクは、田中トウシに匹敵する天才』
『コスモゾーンを解析する能力で言えば、トウシよりも、ザンクの方が上』
「……『勘違いバカ女』の言葉に……この『勘違いバカ野郎』は、震えてしもうた……とことんアホな話やで……けど、おかげで、飛べる……さっきよりも……ほんの少しだけ高く……」
最初に、空気を読んだソンキーが、
ザンクの中に戻る。
阿吽の呼吸。
共鳴率が上がっている。
シナジーが情を超えていく。
――そして、
「テラス……あと、もう少しだけええ。だから……ちょっとだけ……いや、ホンマのところは、かなりなんやけど……手を貸してくれ」
そう言いながら、手を差し出す。
テラスは、一度、蝉原をチラ見してから、
「…………ここで終わってもよかったんだけど、ていうか、むしろ、託して終わりたかったんだけど……まあ、こうなったら、仕方がないかな」
そんなことをつぶやくテラスに、
蝉原は、彼女の目を睨みながら、
「抵抗するなら、ザンクも殺すよ。それは契約違反だから」
「わかってる。ザンクの覚悟と一緒に死ぬよ」
そう言ってから、
テラスは、ザンクの中へと戻っていった。
すべてを受け止めたザンクは、
自分の中に芽生えた『新たなる可能性』を使って、
もっと、もっと、高く飛ぶために頭を回転させる。
「……アホほど開いていく……センテラス……お前の可能性は、ほんまにエグいな」