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20話 ドブゴキブリのように美しくなりたい。


 20話 ドブゴキブリのように美しくなりたい。


「じゃあ、サクっと殺してくれる? 痛くしないでよ。ここまで、散々、傷だらけのボロボロになって、みっともなく、泥臭く生きてきたんだから、せめて、最後ぐらい、サクっと綺麗に死にたい」


 と、そこで、蝉原は、軽く呆れた顔で、

 頬をポリポリとかきながら、


「あのさ、閃くん。君、ずいぶんと、晴々とした顔をしているけれど……一つ聞かせてもらっていい? ……俺は確かに、さっき、『君がおとなしく死ねば、田中ザンクは殺さない』と言ったけれど……その発言を、まさか、うのみにしているわけじゃないよね?」


「うのみにしているわけじゃない。私は、あんたの交渉に応じるだけ。『私との契約を守る』よりも『ザンクを殺す方が大事』なら、好きにすればいい。私は、あんたが、『そんなに小さなカスではない』と思っている。その信頼が『裏切られる』か、それとも、『確固たる結論』になるか――それだけの話だから」


「……脅してくれるね。『信頼のくさび』を、この俺に打ち込むのか。他の誰かの楔であれば『心底どうでもいい』と、鼻で笑うところだけれど……くくっ……『君の中にいる俺』だけは裏切れないな。正直、先のことを考えると、ここで、殺しておきたいけれど……田中ザンクは生かしておくよ。ただ、ここだけ生き延びても、いつか、どこかで死ぬよ。君とは違うんだ。テキトーなところで、何も果たせず、ぽっくりと死ぬよ、アレは」


「死なないと思う。ザンクは、私の想いを継ぐんだから。このまま、もっと強くなって、いつか、あんたを殺すよ。確実に」


「念を押すねぇ。そこまで言われたら、田中ザンクを殺すわけにはいかない。君の中の俺を、『惨めな臆病者』にするわけにはいかないから」


「……ふふ」


「ん、なにがおかしいのかな?」


「あんたのこと、嫌いだけれど……さっき言った通り、部分的には憧れていた。それは事実。あんたのカリスマは、私にはないものだったから。殺されるなら、蝉原勇吾に殺されたい――そんなことを思ったことも……何度かある。常に思っているわけじゃないけどね」


「ふふ……光栄だよ。君ほどのヒーローにそこまで言ってもらえて」


「あんたはカッコよかったよ。いつも、黒く、輝いていた」


「黒光りしていた、と言われると、ゴキブリ扱いにしか聞こえないのだけれど?」


「ドブゴキブリのように美しくなりたい。写真ではとらえきれない気持ち悪さがあるから」


「……くく……ははは……」


 楽しそうに笑ってから、

 蝉原は、


「君は本当に美しいなぁ」


 右手を、テラスに向けて、


「愛しているよ、閃くん」


 そう言ってから、

 異次元砲を放とうとした、


 ――が、そこで、

 ザンクが、






「待てや、蝉原ぁああああああっ!」






 と、それまでのキャラをぶっ壊すような勢いと声量で叫んだ。


 そのド迫力の怒鳴りに、しかし、わずかも怯むことなく、

 ピクリとも反応を示さないまま、蝉原は、


「うるさいなぁ。急にどうしたのかな? 今、俺と閃くんは、非常にエモい別れのシーンを演じているところなんだ。出来れば、黙っていてほしいな」


「……タイマンはろうや」


「……はい?」


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