19話 テラスの評価。
19話 テラスの評価。
「はは、それじゃあ、逆だね。センテラスを殺せるのであれば、君ぐらいは見逃してもいいけど、その逆はないよ。君に、価値なんてない。そこらの虫けらとダイヤモンドを交換するかい? ありえないだろう? 君の提案は、そういうことだよ。相場どうこうの話ですらない。極まったアホの戯言だ」
「……」
「逆の交渉をしてあげよう。君の中にいるセンテラスに告ぐ。出てきて、俺に殺されてくれ。そうすれば、田中ザンクは殺さないでいてあげるよ」
その発言に対し、
ザンクは、
「残念やけど、その提案はありえ――」
と、即座に、完全拒否しようとしたところで、
ザンクの中にいるテラスが、
「――まあ、こうなった以上、仕方がないか」
などと言いながら、ザンクの中から、『物理的』に出てきて、蝉原の前に立つ。
テラスを失い、同時に、強大な力も失ったザンクは、よろけながら、
彼女に、
「いや、ちょっ、何してんねん!」
怒り心頭で叫ぶザンク。
当然、能力が低下したことにキレているのではない。
ザンクの想いをシカトした、彼女の勝手気まますぎる暴挙に対する憤怒。
そんな、激しい怒りを向けられたテラスは、
ニっと、快活に、まっすぐな笑みを浮かべて、
「ザンク。あんたと融合して分かった。最初、あんたのことを『トウシより劣るキ〇ガイ』だと思っていたけど、私の目は節穴だった。実際のところは、トウシと同じぐらい、すごいバカ野郎だった。というか、コスモゾーンを解析する能力で言えば、あんたの方が上」
「……っ……!」
「蝉原は、あんたの『男ランク』を『E』だと言ったけど、それは、蝉原の見る目も節穴だから。あのド低能ヤンキーは、今も昔も『弱さ』が理解できない。それだけの話」
テラスの言葉に、蝉原は、微笑みを浮かべて、
「見る目がある……と言い切れはしないかもしれない。俺も、まだまだ人生経験が足りない若輩者だからね。しかし、『田中ザンクが、田中トウシと同等』という、トンチンカンな評価を下してしまうほど節穴ではないつもりだよ」
「蝉原。あんたはスゴイ男だ。その才能や貫禄やカリスマは、世界トップクラス。全部に焦がれたりはしないけれど、ジャンルを絞れば、私は、あんたに憧れている部分がたくさんある」
「うれしいねぇ」
「あんたは、強くて、賢くて、真っ黒だけど光り輝いている、明確な優等種。でも、だからこそ、見えてない部分が多すぎる。別に、それが悪いと言う気はない。あんたにとっては、見る必要のない部分ってだけの話。全員が全員、同じ感覚を持っている必要はない。だから、これは、『良い・悪い』の話じゃなくて、あんたと私じゃ、査定ポイントが違うってだけの話。あえていうなら、『バイクの買い取り業者に、魔導書を査定させるのは愚の骨頂』っていう、そういう系統の話」
そこで、テラスは、ザンクに視線を向けて、
「ザンク……専門業者の目からすれば、あんたは、間違いなく一級品だよ」
「……」
「……あと……これは、業者としての絶対的評価ではなく、あくまでも私の個人的な見解になるけれど――『天然モノの綺麗な天才』より、『泥臭く努力してきた底意地の塊』の方が、私は好きだよ」
「……っ!」
「あんたにならたくせる。――頑張れ、ザンク、あんたがナンバーワンだ」
そう言ってから、テラスは、蝉原に視線を戻して、
「じゃあ、サクっと殺してくれる? 痛くしないでよ。ここまで、散々、傷だらけのボロボロになって、みっともなく、泥臭く生きてきたんだから、せめて、最後ぐらい、サクっと綺麗に死にたい」