18話 センキーというオプションは伊達じゃない。
18話 センキーというオプションは伊達じゃない。
「じゃあ、はじめようか。ここまでよく粘ったけれど、まあ、でも、ここらへんが君の限界だろう。あとは、サクっと死んでくれ」
そう言った直後、
蝉原は、ザンクに殴り掛かった。
先ほどのザンクのような無策の特攻ではなく、
無数の魔法を展開させた上でのインファイト。
山ほどの技能が錯綜する。
ジオメトリが重なりすぎて、もはや、何が何だか分からない。
バフもデバフも山ほど散布して、
それらが謎のシナジーを発揮しながら、
空間に、悪魔の絵画を描いていく。
「君の目は、俺を追えているかい? 眼球も意識も、ついてきていない気がするんだけれど?」
「……ぐっ……」
――蝉原センキーは、派手に舞う。
華麗なる流で、
ザンクを圧倒していく。
『蝉原センキー』の実力は、見事に、『天照大鏡ザンク』を超えていた。
ザンクを圧倒する中で、
蝉原は、さらに、ニっと笑い、
「……『切り札』に差がありすぎたね。というより、俺と君では、『格』に差がありすぎる。『閃くんのライバルの一人』である俺と、『田中トウシの劣化版』でしかない君……改めて考えると、本当に、レベルが違いすぎるね。同じステージで闘うべきじゃない」
「……ぃい……」
歯噛みするザンク。
まったく抵抗が出来ていない今、蝉原の言葉に反論する術がない。
「田中ザンク。まだ、何か、『次の覚醒』があるというのなら、今、ここで見せてみなよ。出し惜しみしていると死ぬよ」
「……ぅっ……」
「まあ、無理だろうけどね。君の限界はそこだから。わかっているんだ。君はここで、俺に殺される。そして、すべてを奪われる。君はそこまでの男だ。センエースやトウシやソンキーと並ぶだけの価値はない。男のランクで言えば、閃くんがS級、トウシとソンキーがA級、俺がB級……で、君は……おまけして、E級ってところかな」
「……」
「黙ってないで、何か言いなよ。これだけ煽られていながら、無口を通すなんて、男がすたるよ。言葉を失うのと、沈黙を尊ぶのとはわけが違う。辞世の句ぐらいは聞いてあげるから、何か、うたいなよ」
別に『うながされたから』と言うわけではないが、
ザンクは、ぼそぼそと、
「……ぁ、あかんなぁ……マジで、これは、キツイなぁ……」
蝉原の空間に閉じ込められた瞬間から、
ザンクは、『今以上の力』をもとめて、
必死になって、コスモゾーンのあちこちを探し回った。
何かないか?
何かないか?
考えろ!
考えろ!
――必死になって、ザンクは、蝉原センキーを殺すための手段を考えた。
闘いの中で、いくつか実験をしたり、禁域のいくつかに触れたりもした。
けれど、蝉原センキーがあまりに強すぎて、
どうしても、対処しきれなかった。
「蝉原……いや、蝉原大センセー、一個、お願いがあるんやけど、ええかな?」
「なにかな?」
「ザンクさんのことは殺してくれてええから、センテラスだけは殺さんといてくれんかな? もしくは、ザンクさんが、蝉原大センセーの足元に服従して、手足として働くから、どうにか、センテラスのことは見逃してくれんやろか? お願いします。どうか、このとおり」
そう言って頭を下げるザンク。
ちなみに、ザンクが、『他人に、心から頭を下げた』のは、これがはじめて。
これまでは、『外見上』だけ『頭を下げている風に見せたこと』は、何度かあった。
だが、いつも、心の中では舌を出しているか、アクビを垂れ流していた。
――今は違う。
真剣に慈悲を請うている。
そんなザンクに、
蝉原は、
「はは、それじゃあ、逆だね。センテラスを殺せるのであれば、君ぐらいは見逃してもいいけど、その逆はないよ。君に、価値なんてない。そこらの虫けらとダイヤモンドを交換するかい? ありえないだろう? 君の提案は、そういうことだよ。相場どうこうの話ですらない。極まったアホの戯言だ」