13話 マフツノカガミは、ゆがんだ鏡。
13話 マフツノカガミは、ゆがんだ鏡。
「これで、ザンクさんの戦闘力も存在値も、お前と同等。あとは、ガチンコで殺し合いをして、どっちが先に死ぬかのチキンレース。さあ、蝉原……いざ、尋常に、死ぬほどダサくてみっともない、一ミリも見てられへん泥試合を始めようやないか」
「……ふふ……マフツノカガミか……その『不条理な鏡』は、どちらかといえば、俺の方が似合うと思うんだけどねぇ」
「確かに、お前の方が似合うかもな。けど、ザンクさんにも、そこそこ似おうとる。少なくとも、マフツノカガミは、お前だけの専売特許でも、固有スキルでもない」
「そりゃそうだ」
そう言いながら、蝉原は、武を構えて、
「遊べるレベルにはなったようだし、退屈はしないかもね」
そう言い捨ててから、
ありえない速度で、時空を駆け抜ける。
その異質なスピードを、
ザンクの目は、どうにか追いかける。
ほんの少し前までは、絶対に見えなかった世界。
しかし、今のザンクには、なんとか見えていた。
ザンクは、ヒットマンスタイルの構えをとって、
「殺神蛇拳!!」
蝉原の技を、蝉原に叩き込む。
高速で変則的なジャブ。
その予備動作だけで、『変則的な軌道』を完璧に予想した蝉原は、
「――『殺神拳』は、『虚無』でも『永遠人形』でも、扱いが最も難しいスタイル」
軽やかに、ゴキブリのようにカサカサとしたステップで、ザンクのジャブを回避しつつ、
「とにかく、操作が難しい。『特有のステップ』を覚えるだけで数年はかかる。――この鬼のように難しい『殺神ステップ』をマスターするところから始めないと話にならない。神ステを多用した応用技を、どれだけ完璧かつ戦術的に扱えるか……その領域に至ってなお、まだ、スタート地点にすら立てない」
そう言いながら、
蝉原は、ザンクのふところにもぐりこんで、
崩しの小技を一・二発入れてから、
豪速のステップで距離をとる。
「――立ち回りも、扱いも、とんでもなく難易度が高い。そのかわり、極めれば比類なき最強。それが殺神拳」
饒舌で丁寧な説明を受けたザンク。
その間も、ザンクは必死になって、
蝉原をブチ殺そうともがいていた。
しかし、一発もあたってくれやしない。
戦闘力も数値もコピーしたはずなのに、
一発たりとも、カスりもしないという。
「はぁ……はぁ……戦闘力もコピーしたはずやのに、こんなに差があるって、おかしいやろ。一応、『神ステ』もコピーしてんねんぞ……ちゃんとできてんのに……なんで、こんな、あたらへんねん……」
「完璧にトレースされていれば、もう少し苦戦していたと思うけれど、君のコピーは質が悪い。あと、戦闘思考力の方は、コピーできていない様子。田中ザンク。……君は、『鉄火場での殺し合い』を知らない。もっと具体的に言えば……君は、『センエース』を知らない。センエースと殺し合ったことのない雑魚に負けるほど、俺は……蝉原勇吾は脆くない」
「……」
「その『出来の悪いマフツノカガミ』が切り札なら、君は終わりだ。退屈しないかなぁ、と思ったら、結局、アクビが出た……しまらないオチだねぇ。せめて、こっちにも切り札を切らせてほしかったけれど……まあ、君では、その辺が限界だろうね。なんせ、君は、ただの劣化品だから」
「……さっきから、随分と煽ってくれるやないか。そんなにザンクさんのことが嫌いなんか? ザンクさんに親でも殺されたか?」




