10話 なんの価値もないと理解していた『無駄な劣等感』だけが、今を支えてくれている、最強の武器。
10話 なんの価値もないと理解していた『無駄な劣等感』だけが、今を支えてくれている、最強の武器。
(その無駄な劣等感があって良かった……おかげで、今、どうにか闘えとる……)
飄々とした自由人を演じている裏で、実は、ひそかに、アホほど努力をしてきた。
自分自身の感情さえ騙しながら、必死に、コツコツと、血反吐を吐きながら。
――そんな事実が、誰かにバレるのは死ぬよりダルいので、
決してバレないように、必死になって、
……たとえば、『スマホをイジっているフリをしながら、親戚が作った脳開発アプリを使い、思考を加速させるためのトレーニングを積んだり』とか、
……たとえば、『あえて恋人をつくらず、自分を磨く時間を確保したり』とか、
……たとえば、『自分は暗号解読の分野ではトウシに勝てる――とたえず自分に言い聞かせることで、心が折れるのを阻止したり』とか。
……たとえば、『クリティカルシンキングや要約アウトプットを繰り返すことで、論理的思考を磨いたり』とか、
……たとえば、『多段思考力を磨くために、将棋・チェス・囲碁が得意な親戚を利用したり』とか、
……たとえば、『もっと深く思考の海に潜るため、各国の辞書や百科事典を、何百冊と丸暗記したり』とか、
これまでの人生で、ずっと、そういう、小さな努力を積み重ねてきた。
だからこそ、田中家の歴代ナンバーツーになれた。
もともとのスペックももちろん高かったのだが、
ザンクは、努力を積み重ねてきたから、
破格の力を手に入れることができた。
――けっきょく、トウシには勝てなかったけれど、
そんなもんは、今となっては、正直、どうでもいい。
トウシに勝てるか否かよりも、
今は、テラスを守れるかどうかの方が100億倍大事。
「――閃くんの腕の一本でも飛ばせば、ちょっとは、覚醒するかな? 無理かな? 田中ザンクでは、無理か……んー……もう、いいか。さすがに時間がかかりすぎて萎えた。俺もヒマじゃないしね。異次元同一体でも、閃くんは、やっぱり、すごかった……けど、パーツの方が酷すぎてクソだった。やっぱり、閃くんのパーツは、田中トウシしか出来ない。そういうことなんだろうね。ま、最初から分かっていたことだけど」
などと言いながら、
蝉原は、センキーとの距離を詰めた。
そして、右腕にオーラを溜めて、
「じゃあね、閃くん」
そう言ってから、
「――殺神覇龍拳」
凶悪なアッパーが、センキーの腹部にぶっ刺さる。
「がっぁぁ――」
あまりに膨大なエネルギーは、肉体だけではなく、センキーの中心をぶっ飛ばしていった。
あっさりと、一瞬で、センキーの肉体は、粉々に爆散して消失した。
悲鳴すらまともにあげさせてくれない速度。
あっけないものだった。
完全に消えてなくなったセンキーの残滓を眺めながら、
「……さて、と……それじゃあ、あとは、『可能性』だけ回収して、帰ろうか」
仕事終わりの一息をついた蝉原。
――間違いなく殺したはずだった。
蝉原の拳には、センキーを殺した感触が残っている。
――なのに、
「……ん?」
蝉原の深部で、何かがザワつく。