9話 無意味な劣等感。
9話 無意味な劣等感。
(そのへんは、ザンクさんとしても、同意見なんやけど……解除せなあかんもんが、めちゃめちゃ、山ほどあって……例えるなら、扉に、カギが1万個ぐらいついとる感じや……そのうち、半分は開けたんやけど……まだ、あと半分を同じ手順で開けなあかん……っ)
と、泣き言を口にしているザンク。
その直後、
ザンクの泣き言を察知した蝉原が、センキーに向かって、
「所詮、田中ザンクは、田中トウシの劣化品。あの化け物と比べれば、遥かに劣るゴミでしかないってことだね」
これも本音。
『テラスに向けた想い』ほどではないが、それにかなり近い本音。
「暗号解読では田中トウシ以上だと自負しているようだけれど、実際のところ、そんなわけがないんだよね。しょせんは歯車の一つにしかなれない田中ザンクごときが、究極の怪物である田中トウシに勝てるわけがない。すべてにおいて、田中トウシの劣化版。ちょっと奇抜な性格をしているだけのキチ〇イでしかない。そんな燃えないゴミに、運命をたくさなければいけない君の境遇には同情するよ」
(めちゃくちゃなことを言われているけど、言われっぱなしでいいの?)
と、そんなことを言われて、
ザンクは、
(あいつのいうことは、なんもまちがってない)
わずかも動揺することなく、感情をフラットにたもったまま、
どこまでも冷静に、ザンクは、目の前のタスクを処理していく。
脳を並列に扱いながら、
(ガチで言えば、東志と比べられるんもイヤなレベル。あいつは別格。同じ頭脳労働系であるザンクさんは、どこまでいっても、あいつの劣化版でしかない。もし、ザンクさんが、特殊技能系の田中として生まれとったら、まだ、何かで勝てる可能性もあったけど……現状やと、何一つ勝てる気がせん。それが本音。頭使う作業で、あいつに勝てるやつは、この世におらん)
トウシが別格なのは知っている。
だから、ひそかに対抗心を燃やしていた。
せめて、得意である暗号解析の分野では『勝っていたい』という願望。
これまでは、その願望がにじみ出ていた。
トウシを出し抜きたいと思っていたのは、
それが叶えば、
『勝てる部分が一つはある』と本気で思えたかもしれなかったから。
下らない劣等感だと分かっている。
ザンクは頭がいい。
だから、この劣等感が、どれだけ無意味なことか、ザンクの中の冷静な部分は明確に理解している。
トウシと比べてどうなる?
あいつは別格なんだから、相手にしない方がいい。
というか、勝てないからといって、だからなんだ?
ていうか、仮に勝てたからといって、何がどうなる?
大事なのは『自分がどうするか』だろ?
トウシと比べてどうかとか、どうでもよくね?
わかっている。
バカじゃないから。
全部、わかっている。
けれど、
(……その『無駄な劣等感』があって良かった……おかげで、今、どうにか闘えとる……)
――飄々とした自由人を演じている裏で、
実は、ひそかに、
アホほど努力をしてきた。
自分自身の感情さえ騙しながら、
必死に、コツコツと、血反吐を吐きながら。