8話 君と出会えてよかった。
8話 君と出会えてよかった。
「あれだけ美しかった君の武が、今ではゴミのようだ。合体しない方がよかったんじゃない? ていうか、なんで合体したのかな? 何がしたかったの?」
「……随分と、煽ってくれるじゃないか。ほんと、嫌い」
「俺は、君のことが好きだよ」
なんの装飾もない言葉を口にする蝉原。
そこに込められているのは本音。
決して、直線的な意味合いではないけれど、
しかし、間違いなく、その言葉は、蝉原勇吾の本音なのである。
「君と出会えてよかった」
蝉原の本音は止まらない。
蝉原は、『悪質な嘘つき』という最低な属性を持つのが特徴の一つ。
しかし、今だけは、完全なる本音だけで、自分の言葉を構築していく。
どこまでもまっすぐな目を、センキーに向けて、
蝉原は、
「おかげで、たくさんの感情を経験することが出来た」
あえて、ニっと、やわらかに微笑んで、
「ただ判然と生きているだけでは、永遠に得られない経験を、君は、俺にたくさんプレゼントしてくれた。憤怒も、狂気も、妄執も、慟哭も、怨嗟も、憧憬も、切望も」
たくさんの感情的経験を並べて、揃えて、晒して、
「……君を殺したい。その感情があるだけで、俺は、いつまでも生きていける。それって、とても素敵なことだと思わないかい?」
「当然、一ミリも思わない」
そう言いながら、
センキーは、両手を蝉原に向けて、
「異次元砲っ!!」
最大級の魔力とオーラを込めて、
ぶっ放した異次元砲を、
蝉原は、クールに、
「俺がどうしても殺したい君は、そんなに薄味じゃない」
などと、そんなことを言いつつ、
自分に向かって放たれた異次元砲に、右手を向けて、
「……異次元砲」
かなり魔力を抑えた異次元砲を放った。
両者の異次元砲は、ちょうど中間点でぶつかり合い、
そして、パシュンと、気合の入っていない音をたてて、あっさりと消失した。
「……今の君と照射の撃ちあいをしてもつまらないな」
などと、ナメ散らかしたことを口にしてから、
「こっちとしても、時間稼ぎは助かるから、別に待ってあげてもいいんだけど……さすがに、今の、弱すぎる君と遊ぶのは退屈だな……君の中にいるザンクに伝えてくれ。もう待つのはあきたから、さっさとしてくれって」
「……とことん、ナメ散らかしてくれる……」
不快感をあらわにしながら、
テラスは、自分の中にいるザンクに、
(まだ?!)
そう声をかけると、
(全然、まだ、かかる! もう少し、時間を稼いでもらえたらありがたい!)
(いや、なんというか……稼ぐのはたぶんできるっていうか、稼がせてもらっているんだけど……蝉原に泳がされているのは、ものすごい不愉快な気分だから、さっさと新しい領域に飛び込んで、あいつを殺したい)
(そのへんは、ザンクさんとしても、同意見なんやけど……解除せなあかんもんが、めちゃめちゃ、山ほどあって……例えるなら、扉に、カギが1万個ぐらいついとる感じや……そのうち、半分は開けたんやけど……まだ、あと半分を同じ手順で開けなあかん……っ)
と、泣き言を口にしているザンク。