36話 シューリが死ねば万事OK。
36話 シューリが死ねば万事OK。
ニーの突然の暴露に対し、
センがイライラしていると、
――そこで、シューリが、
「なるほど、なるほど。つまり、オイちゃんが死ねば万事OKってことでちゅね」
と、赤ちゃん言葉に戻って、
そんなことを口にした。
と、同時、
シューリは、アイテムボックスからナイフを取り出して、
自分の首につきたてようとした。
すさまじい速度。
迷いのない高速自殺。
寸でのところで、センが、シューリの腕を掴み、
「……おそろしくはやい自殺。俺でなきゃ見逃しちゃうね」
「触らないでもらえまちゅ? オイちゃん、重度のブサイクアレルギーでちゅから、あんたみたいなカスに触られてしまうと、泡ふいて倒れて死んでしまいまちゅ」
「俺がイケメンじゃないって点は認めよう。しかし、『標準より下』ってぐらいで、ブサイクのカテゴリに入るほどじゃねぇ。あと、お前、死にたいのか、死にたくないのか、どっちだよ」
「死にざまは自分で決めまちゅ。ナイフで綺麗に自殺するのはまだいいでちゅけど、ブサイクに汚染されながら、ドロドロに溶けて死ぬなんてまっぴらごめんでちゅ」
「俺に触られたからって、ドロドロに解けて死ぬなんてありねぇんだよ。……てか、よくもまあ、それだけ、俺を傷つける言葉がポンポンと頭に浮かぶな。言っておくけど、お前の言葉のナイフは、毎回、俺の心の急所を的確にえぐっているからな」
「ムカつくなら殺せばいいじゃないでちゅか。あんたなら、オイちゃんぐらい、秒で殺せるでちょう」
「ああ、殺せるよ。けど、お前を殺したら、俺の『ヒーローになるための道』が閉じてしまう。俺は、ぜがひでもヒーローになりたい。だから、お前は殺さない」
「……あんたは、もう、十分、ヒーローでちゅよ」
「……ぁ?」
「……『ニーの本気』が『存在値89億』だと分かったとき、あんたは、それでも、ひるむことなく、ニーに立ち向かった」
「……」
「能力も、気概も、あんたは、ヒーローの条件を満たしていまちゅ。オイちゃんと違って、あんたは、たぶん、この世界になくてはならない存在。全てを照らす光になりうる存在」
「……」
「というわけで、邪魔なオイちゃんは消えまちゅ。さようなら」
そう言って、また、自殺しようとするが、
センは、当たり前のように、ソレを止める。
二度も自殺を止められたイラついた顔をするシューリ。
「マジで邪魔するのやめてもらえまちゅ? オイちゃんの命を、オイちゃんがどうしようが勝手じゃないでちゅか?」
と、歯をむき出しにして言う彼女に、
センは、
「……死ぬな……頼む……」
悲痛の表情でそう言うセンに、
シューリは、心底しんどそうな顔で、
「……何回言えばわかるんでちゅか? オイちゃんは、あんたの毒親にムカついただけで、あんたを助けたわけじゃありまちぇん。勘違いで恩着せがましくされても、ほんと死ぬほど迷惑なだけで――」
「恩なんかどうでもいい……」
「は?」
そこで、センは、我慢できずに、
彼女の頭を、ギュウゥと、世界から守るように、自分の胸に抱きとめて、
「必ず、ヒーローの背中を見せてやる。完璧なハッピーエンドをプレゼントしてやる。だから……俺に賭けろ、シューリ。頼むから……俺に賭けてくれ……」
「……バカじゃないの……」
シューリは、一瞬、泣きそうになったが、奥歯をかみしめて耐えた。
ここで涙を流すなんて、そんなみっともないことは、彼女の『高すぎるプライド』が絶対に許さない。
「…………頭が悪すぎる…………あんたみたいなバカが、私は、世界で一番嫌いだ。気色が悪い。触られている部分が腐っていく気がする。ヘドで溺れそう」
せいいっぱいの虚勢――というか、ただの本音を口にする彼女に、
センも、負けじと、
「悪口のレパートリーと凶度がエグいな。……時間が経つにつれて、お前のことが、どんどん嫌いになっていくんだが」
素直な言葉を口にした。
『見た目の煌びやかさ』は似ても似つかない二人だが、
『中身の面倒くささ』は、似た者同士な気がした。




