35話 もういい。
35話 もういい。
(とにかく、出来ることは全部やる……)
彼女を守るために、
できることを全部やると覚悟を決めているセン。
そんなセンに、シューリは、
「……また1億年を積んだって本当でちゅか?」
と、まっすぐな顔で、そう尋ねてきた。
「ああ、そうだ。すげぇだろ。俺以外には真似できねぇぞ、こんなこと」
「……」
「ちなみに言っておくと、どうやら、俺は、毎日1回、ソウルゲートを使えるらしい。『一兆の敵』が襲来するのは明後日。つまり残り二日ある」
そこで、センは、指を二本たてて、
「このセンエースは、ソウルゲートを使うたびにパワーがはるかに増す。そのソウルゲートを、俺はまだ二回も残している。この意味がわかるな?」
図書館でハマった漫画のセリフを引用していくセン。
どうやら、彼は、作品の引用が大好きらしい。
おそらく、今後も、すきあらば、ぶっこんでくるだろう。
この様子だと、すきがなくとも、ぶっこんでくるかもしれない。
――と、そんな、軽いお茶目を発揮するセンに、
シューリは、
「もういい」
悲痛な表情で、
「私はバカじゃない。見れば分かる。あんたは、憔悴しきっている」
赤ちゃん言葉を使う余裕すらなく、
「それ以上、頑張らなくていい。そんなボロボロの姿を見せられる方が迷惑。私は、死ぬことを恐れていない。そもそも、こんな『くだらない世界』で生きたいとは思っていない。だから、もうソウルゲートには入るな、セン」
「入るなと言われても、一日一回、ソウルゲートに入って1億年修行しないと、俺は死ぬんだよ」
「……は?」
「別にそういう縛りがなくても入るけどな。そもそも、俺には、お前の命令を聞く理由がない。俺は自分の人生を自由にやらせてもらう。俺も、お前ほどじゃないかもしれないが、プライドが高いんだ」
「……一日一回……1億……な、なに、その地獄……そ、そんなもの、心が持つワケない」
「あん? 俺の根性をナメんなよ」
とは言いつつも、心の中で、
(まあ、ギリ、10日が限界かなぁ……仮に、1兆の敵との闘いで生き残っても……その一週間後ぐらいには、灰になって死んでいるだろう)
などと、思っていると、
「その地獄みたいな呪いを解除する方法は?」
と、シューリから聞かれて、センは、
「ん、ない」
と、真顔で嘘をつく。
すると、そこで、
センの頭の上にいるプルプルが、
「ご主人、嘘をついちゃだめだよ。ちゃんと、『シューリ・スピリット・アース・ソルウィングが死ねば解放される』って教えてあげなきゃ」
ペラペラとおしゃべりをするニーを、
センは、ガシっと、わしづかみして、
顔の前まで持ってくると、
鬼のような目でニーを睨みつけ、
「なんで、お前、そのことを知っている?」
「ご主人の所有物になった時、『御主人に関する情報』がインストールされたからだよ」
「ほう。じゃあ、俺が、その情報を心にしまっておきたかった、ということも、当然、インストールされているよなぁ?」
「そんな細かい感情までは知らないよ。ただ、ニーは、自身の道徳と信念に従って、『嘘はよくない』と思ったから、真実をお伝えしたまでだよ」
「……てめぇ……」




