119話 寿司職人の戦闘力は伊達じゃない。
119話 寿司職人の戦闘力は伊達じゃない。
「深淵閃風!!」
テラスは、水面蹴りで蝉原の足を払おうとしたのだが、
「今の俺に、崩しのブッパが通るとは思わない方がいいよ」
そう言いながら、あざやかに、テラスの下段をさばいてみせる蝉原。
とんでもない技能。
技能というよりも、もはや才能の極致ともいうべき神業。
「今の俺には、『寿司職人』の戦闘力が投影されているからね。ヌルい手は一切通じないと思った方がいいよ」
「……寿司……?」
「ん? 知らない? あれ? 知らなかったっけ? ……君が現時点で認知しているのは、マザコンと厨二とオメガだけかな? 異次元同一体の『領域外に対する認知度合』って、それぞれバラバラだからねぇ……誰が、どれを知っているのか、いまいち不明瞭でさぁ。――もともと、プライマルメモリという概念じたいが、かなり不明瞭なんだけれどね」
などと言いながら、
蝉原は、優雅に武を構えて、
「ま、そんなこと、どうでもいいけどね。そんなことより、さあ。続きをやろう。俺は、まだまだ、切り札を隠しているよ」
テラスとの終わらないダンスを熱望する蝉原。
テラスは、そんな蝉原のアプローチに対し、
一度、しっかりと辟易してから、
しかし、
「――いいよ。やってやる……とことん……」
あらためて、蝉原と向き合う覚悟を決めたテラスは、
目をギラつかせて、
「行くぞ、蝉原……殺してやる」
★
とてつもない死闘だった。
はたから見ていたザンクは、
ただただ見蕩れた。
テラスの美しさ、
蝉原の邪悪さ、
その全てを、
心に焼き付けた。
(……やばいな、こいつら……完全にイカれとる……)
まばたきしないように、
自分自身に言いつけて、
二人の死闘を必死になって追いかけた。
あまりに早すぎるため、
すべてを正確に見届けることはできなかったが、
それでも、ザンクは、必死になって、
両者の『高み』を理解しようと努めた。
――そんなザンクの視線の先で、
テラスは、
「ぁああああああああああああああ!! 龍・閃・崩・拳っっっ!!!!!!」
蝉原の腹部に、
魂の一撃をぶち込んだ。
この一手を決めるために、
無数の策とワナを積んだ。
ズラして、揺らして、距離をバグらせて、
無数のフェイントを森にして、ロマン砲を林にして、置き技を木にして、
崩して、いなして、サバいて、
どうにかこうにか、状況を整えて、
ようやくぶち込んだ必殺の一撃。
その一撃をモロにくらった蝉原は、
「ぐふっ……っ!」
大量の血を吐き出して、
ついに、動きを停止させた。
テラスは、
「はぁ……はぁ……見たか、ボケ、ごらぁ……私の勝ちじゃい……っ! なめんなよ、くすぅ……」
戦闘の興奮にまかせて、ただただ、想いを口にする。
そんなテラスに、
蝉原は、
「……すごいな、閃くん……今の俺でも勝てないか……君は、本当に、素晴らしい……」
そんな蝉原の落ち着いた言葉で、
少しだけ冷静になったテラスは、
「……はぁ、はぁ……正直……あんたの方が強かったよ……」
息を整えてから、
「信じられないぐらいパワーアップしていた。けど、私は、私より強い程度の雑魚には負けない」
「……くく……すごいねぇ」