116話 禁止魔カード、使用許可要請。
116話 禁止魔カード、使用許可要請。
(……ノドがつまる……体が熱い……血の音が聞こえる……)
ザンクは、産まれて初めての経験に困惑する。
熱い恐怖と、重たい不快感と、そして、意味不明な高揚感。
理解できない感情の海に溺れていると、
サイアジが、
「ちっ……『カオス』か……できれば、『レゾナンス』が欲しかったんだが……まあいい」
ボソっと、そうつぶやいてから、
アイテムボックスから、2枚の魔カードを取り出す。
そして、
「禁止魔カード、使用許可要請」
――二枚とも、許可する――
許可が下りることは最初から分かっていたという顔で、
サイアジは、まず、一枚を天に掲げる。
「――『おしくらまんじゅう』――」
と、口にしながら、禁止魔カードをビリっと破り捨てる。
すると、
サイアジの姿が変貌していく。
ほとんど一瞬で『極悪な顔つきをしたバキバキのヤンキー』になったサイアジは、
テラスを見ると、
「……ははは。女の子になっているのか。可愛いじゃないか」
などと、チョケたことを口にする。
そんなサイアジの顔を見たテラスは、
「……蝉原……?」
「嬉しいねぇ。君が俺の名前を知ってくれている。それだけで、俺の心は限界まで昂る。君と積み重ねる時間が増えるたび、俺の心を占める君の総量が、指数関数的に増えていく」
などと、そんなことを言いながら、
『蝉原 勇吾』は、
濃密でトゲトゲしい邪悪なオーラを充満させていき、
「俺の視点では、お上品なレゾナンスよりも、荒々しいカオスの方が好きだ。今の君は、飛びきり輝いている。閃くん……君は、いつも、最高に美しい」
膨れ上がっていく。
爆発的に。
常軌を逸した次元へと。
「……いつだって、君は、俺の心を独り占めにしている」
「高性能な男に、そこまで言われて、悪い気はしないけれど……流石に、相手があんたじゃ、口説かれてもゲロしか出ない。あんたが、ドイカレヤンキークソ野郎ではなく、バキバキの美少女とかだったら、素直に喜べたんだけどねぇ」
などと、ファントムトークで場をにごす彼女に、
「ふむ。では、こういうのはどうかな?」
そう言いながら、蝉原は、自分の胸に手をあてて、
何か、ブツブツと唱えだす。
数秒ほど、何かをつぶやいたのちに、
グググっと、蝉原の体が変貌していく。
ギュっと一回り縮まって、
けれど、胸だけはグっと張りだした。
ほんの数秒で、蝉原は、巨乳の美少女へと変化してしまった。
「これなら、喜んでもらえるのかな?」
などと、ファンキーなことを言われたテラスは、
「……ま、まあね」
などと、必死に動揺を隠しつつ、
「ただ、できれば、ヤンキー系じゃなく、清楚でおしとやかなスタイルにしてくれた方がよかったかな」




