104話 センテラス、探偵さ。
104話 センテラス、探偵さ。
「閃壱番、探偵さ」
「……せん……てら……す?」
「いや、引っかかるとこ、そこ? 別に、名前はボケてないんだけど。まあ、確かにクソみたいなキラキラネームではあるけれど。『女神の中で一番はアマテラスだから』とか、わけの分からない理由で、妙な当て字をつけられた、残念ネームではあるけれど。ちなみに、もし、男で生まれていたら、『エース』って当て字をつけるつもりだったらしい。……どっちもどっちだけど、まだ、そっちの方がマシな気がする」
テラスは、一度、タメ息をついてから、
「ちなみに、あんたの名前は? あ、あと、あっちのヤバそうなヤツの名前も教えて」
そう言いながら、ザンクと、サイアジを、指さす。
「お、俺は……ザンク……あいつは……サイアジ……」
「丁寧な紹介、ありがとう。で、あんたは、今、あちらのサイアジさんからボコボコにされている状態で、現状、絶賛救援募集中、と。その認識で、間違いない?」
「あ、ああ……」
「助けてほしい?」
「た、助けて……ほしい……まだ……死にたくない……だから……どうか……たすけて……」
彼女について何も知らない。
どこから現れたのか、どういう存在なのか。
ザンクは何も知らない。
センテラスという名前から、
もしかしたら、『センエース』の関係者?
と、かるく疑ってみたりもしたが、
仮にそうだったとして、だから何だ、とも思った。
正直、『センエースの関係者』であったとしても、サイアジに勝てるとは思えない。
『おそらく、この世の誰も、サイアジには勝てないだろう』と心が弱くなっている。
まだ、わずかに残っている『ザンクの中の男の部分』は、
『彼女に対して求めるべきは救援ではなく、逃亡を促すことでは?』
などとも考える――が、しかし、
弱さを徹底されている今のザンクに、
実際、他人を慮る余裕はない。
だから、無様に、すがりつく。
『センエースの関係者かもしれない』から、
ではなく、単純に、
『誰でもいいから救ってほしい』と願っているから。
その弱さは、本来のザンクであればありえない無様さ。
絶望的かつ危機的な状況で、
心がとことん弱っているがゆえに、
ザンクは、彼女にすがりつく。
己の弱さに身をゆだね、
奇跡を信じて祈る姿は、ただの愚者。
そんな彼の前で、
彼女――センテラスは、
「あいつをぶっ殺し、あんたを救出する」
そう復唱してから、
「ミッション、了解」
乙女ちっくな可愛らしさなどみじんもない、
漢の中の漢らしさ全開のスタンスで、
首をゴキっとならして、
全身に、オーラと魔力を充満させていく。
そんな彼女の姿を見たサイアジは、
いぶかしげな顔で、
「……どのコードにもあてはまらない……貴様はなんだ? どういう命だ?」
その問いかけに、テラスは、サラリと、
「さっきの自己紹介、聞いてなかった? 悪いけど、ついさっき、盛大にスベったばかりだから、もう一度ボケる気はない」
そう言いながら、テラスは、
胸の前で、両手を合わせて、
「――神化――」
己の中のギアを上げた。
その瞬間、彼女の全てが爆発的に膨れ上がる。
凶悪に大きくなった彼女の背中を見て、
ザンクは、ただただ目を丸くした。
「……女神……」
『ただ覚醒技を使っただけ』だとは思えなかった。
今のザンクにとって、彼女はまさに、希望の女神。