101話 ヒーロー、助けて。
101話 ヒーロー、助けて。
ザンクの頭の中が、死に対する恐怖で埋め尽くされる。
心がどんどん委縮していく。
冷や汗があふれて、血が冷たい。
重たい恐怖心が、とめどなくあふれて弾ける。
「……きしょい、きしょい、きしょい……なんやねん、これはぁ……うぅっ!」
自分の体を抱きしめる。
布団の中に逃げ込んで、目を閉じて、耳をふさぎたい――そんな気分。
こんな感情になったのは初めて。
これまで『そういう感情がなかった』というワケではなかったのだが、
しかし、そんな『みっともない感情』に身をまかせるのは絶対にごめんだったので、
これまでは、ずっと、『みせかけの強がりという名の見栄』に意識を支配させて、
『飄々とした異才』で在り続けてきた。
――しかし、『イタズラな領域外の牢獄』で、
そんな、カッコイイキャラを演じることはできない。
ここは牢獄。
魂の檻。
強者を決して許さない地獄。
「ひっ。ひっ……し、死にたくない……た、助けて……誰か……っ」
止まらない振動。
恐怖で体がブルブルと震えている。
涙があふれて、くしゃくしゃの青になる。
「か、考えろ! どうにかして、助かる方法! 思いつけよぉ! のうみそ、動けやぁあああ!」
どうにかして、ここから逃げだす方法を考えようとするが、
恐怖に支配された頭は未来を描かない。
この状況下では、どれだけ素の頭が良くても関係ない。
絶望的な恐怖に包まれている状況で奮い立つには、
本物の勇気が必要。
ザンクにそれはない。
これまでの人生において、『そんなもの』は『必要なかった』から。
『絶対的な知性』と、『自由でありたい』という意志だけが、
タナカ・イス・ザンクにとっての全てだったから。
「あ、ああああ……こわい、こわい、こわいぃいいい! 嫌や、死にたぁない! ホンマに死ぬんイヤや! 絶対にイヤやぁああああああっ!」
『飄々とした異才』というフルプレートの鎧を身に纏っている時は、
死ぬことにさえ俯瞰的になれたザンク。
しかし、その鎧をはぎ取られて、真っ裸になった今のザンクにとって、
『死の恐怖』は、極めて純粋で無垢な痛み。
「誰か、だれか、ダレか……せ、セン……センエース! 助けて!」
ザンクが知る限り、『もっとも有能な力を持つ英雄』に救いを求める。
この世は特撮やジャ〇プアニメじゃないのだから、
『救いに応じるヒーロー』など存在しないと理解している。
しかし、ザンクは思い出す。
レバーデインをボコボコにしていた時、
ドーキガンが、颯爽と登場して、完璧にヒーローをやってみせたこと。
それをイメージしながら、
もっといえば縋りながら、
ザンクは願う。
「頼む! センエースでも、ドーキガンでも、誰でもいいから! とにかくヒーロー! 助けてくれぇえええ!」
この世界にヒーローが存在するか否か。
そんな哲学的な問いはどうでもいい。
切羽詰まった時は、とにかく、『救い』だけを叫び続ける。
そこに、哲学とか倫理とか、そんなお行儀のいい言葉は必要ない。
大事なことは『死にたくない』という魂の叫びだけ。
『助けてくれ』と心の奥底から湧き上がる本音で、ヒーローという夢にすがりつくだけ。
『ヒーローなんていない』と斜に構える余裕もない。
真っ裸でむき出しになっている今のザンクに、
冷静な思考は期待できない。