90話 フリーダム・シャットアウト・ゾーン。
90話 フリーダム・シャットアウト・ゾーン。
ザンクの親戚の中には、任意かつ一瞬で、この完全集中状態になれる者がいる。
ザンクは、そこまでの超越者ではないが、
時間をかけて、じっくりと、自分の奥深くへと潜ることで、
完璧なる『完全集中状態』に到ることも可能。
本来、シャットアウト・ゾーンを『長時間維持すること』など出来ない。
出来るわけがない。
――だが、ザンクは保つことができる。
『フリーダム・シャットアウト・ゾーン』
ザンクは、根源的なルールからも『自由』になれる。
この点に関しては、正しく『バグっている』と言えるだろう。
暗号解読に特化した天才でありつつ、その他の超絶技巧も、自由に、まんべんなく取り揃えている欲張りセットな異端者。
――それが、タナカ・イス・ザンクという変態。
(よし……できた……)
やっとの思いで生成に成功したのは、
禁止魔カード『とおりゃんせ』。
「できたんはええんやけど、この禁止魔カードは、なんの効果があるんやろか……」
高まった集中力に身を任せて、
ひたすらに、盲目に、全力で、
ただただ、完成させることだけに注視したザンク。
ゆえに、禁止魔カードの効果などは知ったことではなかった。
ザンクは、自分の才能に酔いしれながら、夢中になって、『真っ白なジグソーパズル』を完成させただけ。
そのパズルに描かれている白が、なんという意味を持つ白なのかなどどうでもよかった。
ミルクなのか、紙なのか、雪なのか、豆腐なのか。
知ったこっちゃない。
どうでもいい。
大事なことはそんなところにない。
――手の中にある『異質な魔カード』を、
矯めつ眇めつ、眺めながら、
「使ってみよかな? ……でも、大丈夫かな……ヤバいことが起こったりせんかな?」
コスモゾーンの禁忌領域に隠されていた、『何が起こるかさっぱり分からない』という、異質中の異質な魔カード。
そんなもの、『普通の感性の持ち主』であれば、触らぬ神にたたりなしの精神で、シカトしていくのがデフォルト。
しかし、さすがザンクさんは格が違った。
「……まあ、ええわ。とりあえず、やってみよか。それで、なんか、最悪なことになったとしても……まあ、それはそれで、等身大に楽しんだらええ」
いつもの平静な状態なら、さすがのザンクさんでも、ここまで退廃的なことは考えない。
だが、数時間に及ぶ完全集中状態を経た今のザンクさんは、
心身ともに疲れ果てており、まともな判断が出来ない状態にある。
――だからこそ、こんな、わけの分からない『破滅思想』ともいうべき行動に出てしまった。
「禁止魔カード、使用許可要請」
コスモゾーンの情報に触れているので、使い方も、一応、理解している。
こうして、要請を出すと、
――許可する――
と、どこから響いているのか不明な声が届く。
誰の声かなど興味もなかった。
特殊なSiriの声に興味を持つほどヒマじゃない、
ザンクは、謎の許可を得た上で、
「――とおりゃんせ――」
禁止魔カードの名前を口にしつつ、
ビリっと破り捨てた。
――すると、
ザンクの視線の先で、
禍々しいジオメトリが出現した。
そして、
その歪なジオメトリから、
「ギギ……ギギギ……」
おぞましいオーラを放つ『三つ首の龍』が這い出てくる。
その龍は、
「ギギ……ギィイイッ!!」
苦しみながら、
目をひん剥いて、
「ギギガァアアアアアッ!!」
激痛でも訴えかけるように、
全力で咆哮をあげる。




