87話 みんな天才で、俺だけ無能。
87話 みんな天才で、俺だけ無能。
サバイバルが終わった翌日、ゾメガの一存で、学校の『集中講義カリキュラム』の中に、ゾメガ&ドーキガンとの鍛錬が追加された。
見込みのある学生だけがピックアップされて、ドーキガンとゾメガに鍛えてもらえるという特別講義。
ゾメガ&ドーキガンから、高次の教えを与えられたカルシィたちは、
しっかりと、順調に成長している。
――そんな中で、全く別次元の鍛錬をしているのがセンだった。
センは、丁寧な指導手で、ゾメガたちを底上げしていく。
センが磨き上げようとしている対象は、ミシャとポールとゾメガとドーキガン。
カルシィたちは、現闘の段階が、まだまだ、お粗末なので、
その辺の指導を、ゾメガに一任している感じ。
高次の鍛錬を続けている中で、
ドーキガンが、
(不思議ですね……彼の指導をしていると、いつも、自分が磨かれていくような気がする……)
心の中で、そんなことをつぶやく。
センに修行をつけている途中、いつも、そんなことを思っていた。
教えているはずなのに、教えられてばかり。
――センは、ナイトメアソウルゲートの中で、自分が作成した弟子に、武を叩き込むという訓練を延々に繰り返してきた。
だから、指導者としての腕はかなりの高みに達している。
この辺は、『知識』と『経験』が重要になってくるので、
ステータスが下がった今の状態でも、なんとかこなすことが出来る。
センは、ドーキガンたちを磨きながら、
心の中で、
(こいつら、全員、とんでもねぇ天才だ……)
彼らの才能におののいていた。
『無能の自分』とは別格。
ドーキガンも、ゾメガも、ミシャも、ポールも、
全員が、とんでもない天才で、
『才能』という点だけで言えば、全員が全員、綺麗に、センを置き去りにしていた。
ここにいる者の中で、センだけが飛びぬけて無能。
才能という視点だけで言えば、
『影すら見えない遥か遠く』にいる彼・彼女らに対し、
普通に嫉妬心を抱くセン。
(もし、俺に、こいつらほどの才能があったら、どこまで行けただろうか……)
などと、意味のない妄想に浸ってみる。
センは聖人でもないし、『人間が出来ている』というわけでもないので、
時折、つい、『無意味な落胆』で心を縛り付けてしまう。
いつだって、結局のところは、ただの人間。
100億年以上の月日をかけて修行をしても、
『弱くて脆い人間』であることに変わりはない。
いつまでたっても、悟ることなんかできやしないし、
命の答えに辿り着くこともない。
永遠に未完成のまま、
センは『命の今』を彷徨い続ける。
「次は俺だ。セン」
そう言いながら、ポールが前に出て、
ワンダーマン(ザンク)の指揮をとる。
サバイバルの時の闘いも、ここでの修行でも、ポールは、一貫して、『ワンダーマン(ザンク)を前線』に出すというスタイルを貫いている。
ワンダーマン(ザンク)は、センの動きをトレースした上で、
『ゾメガの魔力』の一部もトレースするという、
なんとも、バグ技めいたことをしてみせる。
そんなザンクーマンを見たセンは、普通に瞠目して、
(ポールが召喚するワンダーマンは、常に、俺の想像のナナメ上を行くな……)
今回の特別講義という名の修行で、
最も花開いたのは、間違いなくザンクーマン。
『ポールのワンダーマン』――『タナカ・イス・ザンク』は、
センとの闘いを通して、新たな扉を開きまくっていた。