84話 バグでも、俺でもなかった場合が問題。
84話 バグでも、俺でもなかった場合が問題。
「セン様、大丈夫ですか? どこか、痛むところは? 苦しかったりしませんか?」
と、センの額に手を当てながら、心配そうな顔をしているミシャ。
センは、軽く辟易した顔をしつつも、彼女の心に寄り添うような声音で、
「気力を使い果たして倒れただけだから、どこも問題とかはないよ」
そう言いながら、上半身を起こして、
周囲にいる者たちを確認する。
まっさきに目をつけたのはゾメガ。
センは、頭を下げて、
「陛下。戦闘中は、ちょっと興奮していたので、だいぶ口調が荒くなりました。もうしわけないです」
と、正式に謝罪をする。
すると、ゾメガは、
「そんなことはどうでもいい」
と、心底どうでもよさそうに、そう言った。
ゾメガの許しを得たセンは、顔を上げて、
「そっすか。……じゃあ、それはそれとして……褒章の件はどうなりました? 一応、俺、陛下に一撃はいれましたよね?」
「もちろん、褒章はあたえる。出来れば、『余に一撃を入れた』という、その過大な功績をたたえて、特別な褒章を与えたいところだが――」
「そういう特別扱いはけっこうです」
『別に、褒章そのものは目的じゃねぇし』
と、心の中でつぶやきつつ、
センは、ベッドから起き上がり、
「じゃあ、俺、寮に戻ります。ミシャ、行こう」
『サバイバルが終わったら、その場で解散』というルール。
すでに、途中敗退した者たちは家路についている。
センも、それにならおうとしたのだが、
ドーキガンから、
「まってください。少し話があります」
そう声をかけられて、
センは彼に視線を向ける。
「えっと、なんすか?」
「あなたに知っておいてもらいたいことがあります。少し、お時間をください」
そこから、センは、『邪神』と『災厄』についての話を聞かされた。
すでに邪神は召喚されていること。
そして、この世界が抱えている面倒事は邪神だけではないということ。
(……邪神はミシャだが……『災厄』ってなんだ? ……バグのことか?)
その可能性が一番高い――と考えつつも、
センは、
(それとも、もしかして……俺とか? そういう可能性も……ゼロじゃないよな……邪神の力を奪った存在なわけだから。『よりヤバイ存在』として、世界に認知されたとしても、おかしいってほどじゃない)
ザンクと同じように、『自分のことだろうか』と考えたセンは、
(まあ、もし、その災厄というのが『俺』のことだったとしても、俺的には、なんの問題もないけどな。そして、バグだったとしても問題はない。もともと、そいつを殺すつもりで、ここにきているんだから。問題なのは、『バグでも俺でもなかった場合』……非常に厄介……バグの処理ですら辟易してんのに、その上、まだ、他に、厄介事が舞い込むとか、マジで勘弁してほしい……これ以上の荷物は背負えねぇよ……)
などと考えている間に、
ドーキガンは、聖龍王国の話をつづけた。
バーチャや聖主についての話を聞かされたセンは、
(……バーチャ? 聖主? 知らんぞ、そんなやつら)
この世界に転生する前、
センは、この世界に存在する強者や国など、
あらかた、一応、頭に入れてきている。
聖龍王国のことも、多少は知っているのだが、
転生する直前まで、バーチャや聖主などは存在しなかった。
(……もしかして、そいつらバグ? いや、話を聞いた限り、バグとかじゃねぇか……バグどもは、実質、ただの虫だし……あ、でも、ナイトメアソウルゲートで闘った時の二体のバグは、一応、対話とかできて人間的だったなぁ……)