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83話 見知らぬ天井。


 83話 見知らぬ天井。


「――龍閃崩拳――」


「うぉおおおっっ!」



 避けられなかった。

 ――『避けたくなかったという願望もあったのだが、しかし、きっと、本気で避けようとしても、避けられなかっただろう』と、ゾメガは推測する。

 無意味な推測。

 だからなんだと言いたくなる無駄な思考。




 そんな時間の果てに、ゾメガは理解する。




(――死っ――)


 自分の『中心』が砕けていくのを感じた。

 コスモゾーンに回収されていく。


 そんな無意識の中で、

 ゾメガは確かに聞いた。


「――まだ、お前には、役目がある。こんなところでサクっと死んでいられるほど、お前の人生はヌルくねぇ」


 言葉の直後、手を差し伸べられていることにも気づいた。

 反射的に、その手を握ると、心が驚くほど熱くなった。

 ひどく暖かいと感じる以上に、狂おしいほどに熱いと感じる。


 全身の全部が燃え上がっているよう。

 脳が活性化する。

 どこまでも。

 いつまでも。



「……センエース。ぬしは異常が過ぎる」



 ただの本音を漏らしたゾメガに、

 センは、ニっと笑って、


「俺は異常じゃねぇよ。俺が異常に見える世界が異常なんだ」


 と、最後はファントムに、

 なんの中身もない言葉でケムにまく。


 そんな、センの過剰に軽薄な態度に、

 ゾメガは、思わず笑ってしまった。


 そんなゾメガを尻目に、センは、


「……おっと……」


 自分を支えきれなくなり、その場に倒れこんだ。


「あらら……やべっ……」


 クラっとしたかと思った直後、そのまま視界がブラックアウトする。

 すべてを使いきって気絶。

 もはや、立っていることもままならなかった。


 完全に動けなくなってしまったセンの前に、



「……っ」



 それまで黙って闘いを見守っていたミシャが立って、

 覚悟の灯った目で、ゾメガをにらみつける。


 その瞳を受け止めたゾメガは、フっと微笑んで、


「余が、センに何かするとでも?」


 その問いかけに、

 ミシャは、微動だにせず、


「何かするとは思っていない。けれど、何かしようとしたら殺す」


「暴力的な忠誠心じゃな」


 そう言いながら、ゾメガは、その場にドカリと座り込み、

 天を仰いで、センに殴られた腹をさすりながら、


「まあ、わからんでもない」


 ボソっと、そんなことをつぶやいた。



 ★



 その数時間後、

 センは、


(……見知らぬ天井……)


 ふもとにあるゾメガの天幕の中で目を覚ました。


 周囲には、ミシャ、ドーキガン、ザンク、ゾメガ。

 カルシィチームや、リグ&ラーバは別の場所にいる。


 ここにいるのは、『絶対にセンの側を離れなかったミシャ』と、ゾメガたちだけ。


 目を覚ましたセンに、最初に声をかけたのはミシャ。


「セン様、大丈夫ですか? どこか、痛むところは? 苦しかったりしませんか?」


 と、センの額に手を当てながら、心配そうな顔をしているミシャ。


 呪いを奪い取ったあの日以降、

 ミシャは、センのことを、過剰なほどに敬うようになってしまった。

 最初のころは、

 『いや、そんなにかしこまった態度じゃなくていい』

 と、彼女の慇懃いんぎんな態度に対して、やめるように言っていたセンだが、

 しかし、彼女は、何を言われても、センに対する態度を変えなかったので、

 今では、もう、何も言わなくなっていた。


「気力を使い果たして倒れただけだから、どこも問題とかはないよ」



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