61話 すべての可能性に対処できるほど、我々は強くない。
61話 すべての可能性に対処できるほど、我々は強くない。
「バーチャは『強大な力をもっており、邪悪な気配を纏っている』というだけなので、現段階では、彼が『邪神である』と断定することはできません。ただ、問題なのは、ボクたち全員でかかっても勝てるかどうか分からないぐらいの、圧倒的実力者であり、そんな人物が、決して善人ではないということ」
「……ふむ……」
ゾメガは黙って話を聞いていた。
静かに、何度か頷いているゾメガに、
ドーキガンは続けて、
「聖主とやらが、どれだけの力をもっているのか、そもそも本当に存在するのか、その辺はまだ不明な段階です。仮に、聖主が実在しており、バーチャをしのぐ実力を持つのだとしたら、これは、とんでもない脅威です。聖主が、バーチャを、善の力で抑え込んでいる、というのであれば、問題はないですが、そうでなかった場合……北も南も、かなりピンチな状態である、というのが私の判断です」
「……ふむ……確かに……最悪のケースを想定した場合……北大陸だけの問題ではないのう」
「というわけですので、ゾメガさん、この問題に対処するために、どうか力を貸していただきたいのです」
「邪神か……正直、半信半疑だったんじゃが……うむ……」
ゾメガは、かるく天を仰ぎ、深呼吸をして、
「話を聞いたところ、現状、色々と、情報が錯綜しとる様子……不明瞭な推測だけで、『こうではないか、ああではないか』と多くの可能性に目を配るのはやめて、一旦、『一つの指針』をたてるべきじゃな」
そう言うと、ゾメガは、
「バーチャなる者が邪神であるかどうか、その真偽は今のところ分からん。だが、そうであると過程して動いた方が、対策はたてやすいと判断する」
たんたんと、冷静に、理知的に、話を前に進めていく。
「仮に、今後、どこかで『バーチャは邪神ではなく、本物の邪神は他に存在している』と分かったら、その時は、単純に、ターゲットを変更すればよい。そういう風に腹を決めておけば、新事実が判明したとしても、みっともなくオロオロするこはなかろう」
『邪神対策』という『根本となる計画そのもの』をシッカリと進めていれば、邪神が別にいたとしても、『ターゲットが変更されるだけ』なので、そこまで大きな問題とは言えない。
そんな風に、『腹を決めていく作業』と並行して、
一つ一つの情報をまとめていく。
「バーチャは邪神であり、聖主とやらは、ドーキガンが夢で見た『もう一つの災厄』だと仮定し、話を進めよう。邪神と災厄が、ウワサ通りの『生命にあだなす怪物』であるならば、確実に滅ぼさなければいけない」
「おっしゃるとおりです」
「敵が侵攻をはじめてから対処をするのでは遅い。やるなら、先手を打つべき。仮に、すべてが疑心暗鬼で、聖龍王国が悪ではなかったパターンもありえるが、それは想定しない方向でいくべきじゃろう。『可能性』に振り回されていては前に進めん。すべての『可能性』に対処できるほど、我々は強くない」