60話 南大陸の絶対的覇者ゾメガ・オルゴレアム。
60話 南大陸の絶対的覇者ゾメガ・オルゴレアム。
「今年の学生は、非常に優秀な者が複数名いると報告を受けている。そういう場合、基本的には長期化するから……ここで待つとすると、最悪、2週間以上待たなければいけない、という可能性もあるぞ」
エレの説明を受けたドーキガンは、
「……なるほど……それは、ちょっと許容できませんね」
そうつぶやくと、チラっと、モナルッポに目線を送る。
その意図を読んだモナルッポは、コクリと小さく首を前にかたむけた。
「お仕事の邪魔をするのは本意ではありませんが……今回ばかりは仕方がありませんね」
★
クオロロン霊山は、現在、異様な熱気に包まれていた。
遠目からでは、さすがに分からなかったが、
ふもとまで近づいてみれば、察しの悪い者でも、その異様さに気づける。
霊山自体が、もともと持っている異質なオーラに加えて、
学生たちの殺気と生命力が混ざり合って、
バチバチとしたトゲトゲしいオーラが、これでもかと空気をよどませている。
ドーキガンたちは、
エレに教えてもらったルートをたどり、
ゾメガがいる天幕へと向かった。
天幕まで100メートルという地点にまで近づいたところで、
「人類の英雄ドーキガン・ザナルキアだな」
ゾメガの配下の一人が、そう声をかけていた。
「通信魔法で、エレ将軍から話は聞いている。陛下がお待ちだ。拝謁を許可する」
★
天幕の中に入ると、
そこには、簡易の玉座が設置されており、
その簡易玉座に、シワシワの老人が腰かけていた。
老人は、静かに、ゆったりと、本を読んでいた。
その老人こそが、ゾメガ・オルゴレアム。
オルゴレアム帝国の絶対的支配者。
魔物ひしめく南大陸の覇者。
老人の姿は、アリア・ギアスの一貫。
ゾメガ・オルゴレアムは、変身型かつ魔法使いタイプの魔人。
ベースとなる形態を『だいぶ力の劣る老人状態』に抑えることで、『変身して本気を出すとき』のパワーが激しく増すようなビルドになっている。
とてつもない魔力を誇っており、魔法の技能という点だけで言えば、『北大陸では最強の魔力を持つドーキガン』ですら、足元にも及ばない。
ゾメガは、天幕に入ってきたドーキガンに気づくと、
本を閉じて、アイテムボックスに戻し、
「……久しぶりじゃな、ドーキガン。最後に会ったのは、一年ぐらい前じゃったかな?」
「そうですね。ご無沙汰しております」
「それで、余に何の用かな?」
「実は――」
そこで、ドーキガンは、ゾメガに、もろもろを説明していく。
邪神がすでに降臨していること。
邪神以外の強大な『災厄』も出現する可能性があること。
そして、それが、聖龍王国の新しい支配者『聖主』と『バーチャ』ではないかと疑っていること。
「バーチャは『強大な力をもっており、邪悪な気配を纏っている』というだけなので、現段階では、彼が『邪神である』と断定することはできません。ただ、問題なのは、ボクたち全員でかかっても勝てるかどうか分からないぐらいの、圧倒的実力者であり、そんな人物が、決して善人ではないということ」