55話 ザンクは、さらに先へ行く。
55話 ザンクは、さらに先へ行く。
(――『殺し合い』の経験が皆無に等しい『今のザンクさん』にどうこうできる相手やない……『机上論のぶっつけ本番』が通じるほど『バーチャが立っとる世界』は甘くない)
ザンクは、その脅威の頭脳をフル回転させて、
バーチャとのふれあいで得た『神闘という概念』を心に焼き付ける。
(神の領域……人のままでは、絶対にたどり着けん高み……それを、ザンクさんは、今日、知った……これは、大きな収穫……『今のザンクさんではバーチャに何もできなかった』という経験値は、今後の糧になる……だから、ザンクさんは、負けてない。むしろ、勝ったと言える……というか、ほぼ完全勝利やな。うん)
そう、断言しきったところで、
ザンクは、魔力が尽き果てた――という演技をしつつ、その場に倒れこむ。
そして、そのまま、『Tの権限を奪うため』の並列思考にシフトする。
切り替えの速度も異次元レベル。
それが、ザンクさんが誇る優良なスペックの一つ。
――ザンクのあがきが終わったところで、
『召喚士モナルッポ』VS『バーチャ・ルカーノ・ロッキィ』の闘いは終了した。
「小器用で小狡い魔法使いタイプのワンダーマンと、なかなかの圧力を持つ剣士型のスタービーストか……悪くないオプションだ」
バーチャは、そう評価してから、
「10億年ほど修行すれば、私にかすり傷をつけることぐらいは出来るかもしれんな」
と、鼻で笑いながら、そう言うと、
「今日の組手は終わりだ」
そう言い捨てて、
どこかに瞬間移動してしまった。
残されたドーキガンは、バーチャの残滓をにらみつけながら、
(……バーチャ・ルカーノ・ロッキィ……まったく底が見えない強敵……ボク一人だけでは対処しきれない……ゾメガさんに相談する必要がある……)
と、ドーキガンが、未来について思案していると、
「うぉおおおっ! 開いたぁああ!」
と、背後からそんな声が響いて、
反射的にバっと振り返る。
視線の先では、モナルッポのワンダーマン(ザンク)が、
何やら、右手を天に掲げて恍惚の表情をしていた。
「えっと……ポールさん、彼は、いったい、どうしたのですか?」
「気にするな。たまに出る発作だ」
などと、ザンクを、ただの異常者扱いするモナルッポ。
しかし、ザンクさんは、ただの異常者ではない。
とんでもない可能性を秘めた『田中家の血族』である。
――つまりは、
(バーチャと戦った経験が活きた……結局、やっぱり、ザンクさんの完全勝利でした、っと)
★
――バーチャとの闘いで、『神闘』の片鱗に触れたザンク。
『努力と死闘だけはちゃんと積んできた超神』の『力』を『実際に体感したこと』で、お勉強だけでは絶対に賄えない、高次知識の勘所・要所を、キッチリと補完することが出来た。
言語取得の際によくあること。
『ある日、突然、その言語のコツをつかむ』という異質な体験。
――それに近いことが、バーチャとの闘いを経たことで、ザンクの中に起こった。
ここに関しては『数独』でイメージしてもいいかもしれない。
不明瞭だった『重要な部分』の数字が確定したことで、
イモズル式に、他の数字も確定していき、全体のパズルが完成する――そんな感じ。