54話 ボリュームのあるイタズラ心。
54話 ボリュームのあるイタズラ心。
(勝つんは無理でも、一発カマすぐらいは、さすがにさせてもらう……っ)
知恵者の意地を見せようとするザンク。
自己愛が強く、自由で奔放で洒脱で――そして、負けず嫌い。
――影分身は囮。
本当の狙いは、事前に仕込んでおいた機雷のワナ。
(6か所セットさせてもろた。一個でも引っかかったら、もう、それでええ)
別に、機雷が発動したからといって、
大きなダメージを与えられるわけではない。
だが、別にかまわない。
『狙い通りにカタにハメること』さえできれば、それで、第一関門はクリア。
今、バーチャを殺せるかどうかはどうでもいい。
重要なことは、自分の叡智で、相手を驚かせることが出来るか否か。
――それが通るか否かで、『本当の決戦時』に、『本気の策』がどれだけ通るかが分かる。
(視線での思考誘導、全方位に根を張った意思の目付け……フェイクにブラフに、なにもかも、全部ぶっこんだ……こんだけやったんやから、さすがに通るやろう……っ)
機雷へと誘導させるためのワナをいくつも張った。
『ちょっと驚かせるため』『1ダメージをあたえるため』だけに、
頭をフル回転させて、最善の手を放った。
今のザンクに出来る全部を賭して、
絶対に成功すると確信できる奇策を打った。
――けれど、
「――ほう……ここまでの全てがワナか……ボリュームのあるイタズラ心だな」
バーチャは、丁寧に、すべての機雷を削除してみせた。
(おぉ……マジでか……そんなアッサリと見破られる? ウソやろ……こいつ、どんだけ場数踏んでんねん……)
田中家の、盤上での強さは、間違いなく世界最強。
……ただ、それは、『コマの強さ』が同じ場合の話。
圧倒的に差がある場合、
さすがに、策は通じない。
「扱い辛い『遊』の属性を、なかなか小器用に弄んでいるんじゃないか。基本的に、小癪な小細工に対しては不快感しか抱かないのだが、それだけ、丁寧に小賢しさを振りかざされると、なかなか、どうして、小気味いい」
ザンクは、これだけ、丁寧に組んだ小細工であれば、
一発かますぐらいは出来るだろうと思っていた。
しかし、バーチャにはまったく通じていなかった。
その、『程度』から、ザンクは、バーチャの『経験値』を推測する。
(……とんでもない研鑽……モナルッポとは技能の次元が違う……というか、たぶん、くぐってきた修羅場の数が違う……『殺し合い』の経験が皆無に等しい『今のザンクさん』にどうこうできる相手やない……『机上論のぶっつけ本番』が通じるほど『バーチャが立っとる世界』は甘くない)
ザンクは、現闘や神闘に対する理解が、まだ、ほぼゼロの段階である。
コスモゾーンのデータを漁ったことで、多少は、『高次の闘い』というものを、知識としては理解したが、本質的にはまったく理解できていない。
当然。
経験していないのだから。
野球のルールブックを盗み読んだだけで、メジャーの高みが理解できるわけがないのと同じ。
――だが、ザンクは、その脅威の頭脳をフル回転させて、
バーチャとのふれあいで得た『神闘という概念』を心に焼き付ける。