53話 そこそこ小狡い知恵を持つカス。
53話 そこそこ小狡い知恵を持つカス。
自分はとにかく影を薄くして、バーチャの意識から外れ、
そのまま、ドーキガンとの闘いに夢中になっているスキをついて、
ドーキガンの影に忍び込み、
注意深く、チャンスを待った。
いくつかチャンスはあったが、
ザンクは、その中で、最善と思われる、
『バーチャが、ドーキガンの底を見通したタイミング』を見計らって、
『本当の底力がバレない程度の魔法』を放った。
魔法のランクこそ、全力ではなかったが、
しかし、『策』だけは全力だった。
細かく戦場を計算し、
最高の一手を放った。
相手が人間だったなら、
間違いなく、数秒ほど、動きを封じることはできただろう。
そのぐらい、ザンクの『一連の一手』は、本当に見事だった。
それに、レバーデインを複数回殺すことで得た経験値を、『遊』の魔法にブッコんでいたため、スペックは爆発的に上昇している。
特殊レベルが開花していない状態で、『経験値(魂魄)』を、そのように、『自由』に扱うことはできないのだが、しかし、魂魄処理機構の一部をハックしているザンクは、その辺の制限もとっぱらっていた。
破格に自由な『遊』の魔法を操る異質な天才という布石。
絶対にバレない高度なワナを張って、
精神の死角から良質な一手を叩き込んだ。
――が、
「ただのゴミカスかと思ったら、そこそこ『小狡い知恵』を持つじゃないか。影に入って隠れているだけかと思ったら、呪縛のタイミングをうかがっていたとは。私が、戦場で油断をするバカだったら、貴様の術中にハマっていただろう」
ザンクが魔法を放った相手は、バーチャの残像だった。
「これまで、何度も、愚かな油断により痛み目をみてきた。私が戦場で気を抜くことは、もうない」
残像相手に魔法を放ったとて、当然、無意味。
サクっとスカされて、背後に回られた。
(影に忍んどったことが、そもそも普通にバレとるぅ……っ!)
幻のシックスメンよろしく、
相手の認知の外側から、
華麗に、ハメ手を放とうとしたザンク。
当然、ただ影に忍んだだけではなく、いくつかの、『認知阻害』系の魔法も使っていたし、自分自身の影の薄さと、ドーキガンの存在感を隠れ蓑にもした。
――しかし、その程度の策は、バーチャには通じない。
超神をナメてはいけない。
「ちっ」
舌打ちをしてみせるザンク。
と、同時、
先ほど展開させようとした『遊霊呪縛ランク15』を遊ばせて、
「――遊闇・影分身ランク15――」
特異なカスタムがほどこされた分身の魔法を使う。
一応、策は二重に構えてあった。
一段階目でハマってほしかったところだが、二段階目に入っても別にいいとは思っていた。
――『考えること』に関しては右に出る者がいない。
それが、田中家特徴。
相手が神であろうと、盤上での戦いでは負ける気がしない。
(勝つんは無理でも、一発カマすぐらいは、さすがにさせてもらう……っ)
知恵者の意地を見せようとするザンク。
自己愛が強く、自由で奔放で洒脱で――そして、負けず嫌い。
そんな本質をいかんなく発揮させて、
ザンクは、バーチャに、どうにか、一発かまそうと奇策を放つ。