52話 私の前に立つ資格はない。
52話 私の前に立つ資格はない。
バーチャが、とんでもない存在であることは理解していたつもりだったが、
こうして、実際に目の当たりにすると、やはり、ショックの度合が違う。
(今のボクでは勝てない……モナルッポさんやゾメガさんと力を合わせて、それでもどうかというレベル……これほどの高みに到っている者がいるとは……想定外……)
強者は強者を理解できる。
ドーキガンは、バーチャを正確に理解した。
(このバーチャと言う男からは……『鋭い邪悪さ』を感じる……決して清廉な存在ではない。悪意と闇を心に抱いているのが、拳から伝わってくる……コレとは、絶対に相いれない……)
その理解に届いた時、同時に、
(邪神なのか? バーチャ・ルカーノ・ロッキィこそが、予言の邪神なのだろうか?)
疑念を抱く。
バーチャが邪神であってもおかしくない。
そう思ってしまうだけの濃い闇深さが、バーチャにはある。
(――そうであったならば、なんとしてでも滅ぼさなければいけない。そうでなかったとしても、これを放置することはできない)
そう理解すると同時、
ドーキガンは、ギアを入れ替えた。
本気モード。
心臓がドクドクと加速する。
(――怪しまれているかもしれないが、まだ、完全にはバレていないはず……正体がボクだとバレないギリギリのラインを責める……情報有利のアドバンテージを保ったまま、バーチャ・ルカーノ・ロッキィの全容を丸裸にしてみせる!!)
存在値300前後に抑えたまま、
ドーキガンは、バーチャに全力を叩き込む。
可能な限り最速のインファイト。
無数のフェイントとジャブを嵐にして、
生成した死角の沼から魔の手を忍ばせる。
これまでに磨き上げてきた全てを華麗に賭して、
バーチャの底を量ろうとした。
そんなドーキガンの一手に対し、
バーチャは、
「……ふんっ」
と、つまらなそうに、一度鼻で笑い、
「……まだまだ現闘の底すら見えていない『小さなカス』が、この超神バーチャ・ルカーノ・ロッキィをはかろうなどと、かたはら痛い」
「――私の前にたつには、1億年早い」
――と、
バーチャが、ドーキガンを見下した、
その時だった。
「――遊霊呪縛ランク15――」
ひそかに、
ドーキガンの影に潜んでいたザンクが、
バーチャの影へと乗り換えたと同時、
影の中から、
バーチャを拘束しようと魔法を放った。
★
――タナカ・イス・ザンクは、バーチャの姿を見た瞬間から、
『格の違い』を感じ取っていた。
その認識に至ると同時、並列思考をやめて、
『バーチャを知る事』だけに全力を賭すと決めた。
『バーチャは別格。こいつのことだけは、正しく理解しておかんとマズい』
単純な危機感から、ザンクは、バーチャを知るために脳の指向性を全振りした。
最も良質な形でバーチャを知るためにはどうするべきか、
超短時間の中で、アホほど考えたザンクは、
『直前までボーッとしていた自分』と『ドーキガン・ザナルキア』の二つを布石に使おうと考えた。
自分はとにかく影を薄くして、バーチャの意識から外れ、
そのまま、ドーキガンとの闘いに夢中になっているスキをついて、
ドーキガンの影に忍び込み、
注意深く、チャンスを待った。




