40話 人類の救世主は、みんなの心のヒーロー。
40話 人類の救世主は、みんなの心のヒーロー。
ドーキガンは、ザンクのモノサシの向こう側にいた。
モナルッポやサーナとは、深みがまるで違った。
『人類の救世主』という称号は伊達ではなかった。
(あのヘルズ覇鬼は、ただ壊しただけやなく、一応、ザンクさんなりのカスタムをほどこしたんやぞ……モナルッポが本気を出しても、そう簡単には殺せんように仕上げたのに……そのヘルズ覇鬼を、飛ぶ斬撃で一撃か……)
斬撃を飛ばすのは、射程距離を伸ばすという意味では大きなプラスだが、当然、『普通に斬りつける』よりも、だいぶ威力が劣る。
そして、ドーキガンには、まだまだ大きな余裕が見えた。
(……確かに、ドーキガンだけは別格のようやな……そのドーキガンとタメを張れるという噂のゾメガ……そして、そんな二人以上の可能性があるバーチャ……ふむ……なかなかおもろいやないかい……)
などと、ザンクが心の中で思っていると、
周囲の面々が、一様に、ドーキガンの勝利を喜ぶ歓声を上げた。
最も喜んでいるのは、当然、カバノンだった。
「すばらしい! さすがは人類の救世主!」
手が壊れそうなほどの拍手で、ドーキガンに喝采を浴びせている。
そんな彼を尻目に、世界ランク1位の大国フーマー精霊国の代表ケイレーンは、心の中で、
(やはり、勇者は素晴らしい。『壊れてしまった王級モンスター』をも一撃で屠ってしまうとは……それも、空斬で……これほどの実力を持つ人類史上最強の超人が、清廉潔白、高潔無比であるという事実……やはり、神は、間違いなく、人類の味方……)
良いことがあれば、すべて神と結びつける。
それが、宗教家の基本的な考え方。
ケイレーンは、ド直球に『敬虔な神の信徒』だった。
ちなみに、その思想は、カルの相談役『コーレン』も同じだった。
彼は、『カルを監視する目』としてフーマーから派遣されている使徒。
コーレンは、心の中で、
(これほどの力を持つ勇者がいれば、人類は無敵。魔王ゾメガは、メシアと同程度の力を持つなどと言われているが、そんなはずがない。人類の救世主が魔物の王と同列など、そんな不条理を神が許すはずはない。魔王ゾメガ・オルゴレアムは、所詮、人間を団結させるために、神が用意したハードルの一つに過ぎない。いずれ、人類は、神の元で団結し、すべての魔物を打ち滅ぼし、『完全なる生命体』へと昇華される……っ)
コーレンの過激な思想は『彼だけの特別』ではない。
南大陸に攻めていった8つ星の冒険者『リグ』と、思想の根底は同じ。
基本的に人類至上主義であり、その副産物としての『魔物に対する差別思想』が根強い。
――喝采と賛美の中で、
ドーキガンは、チラと、モナルッポに視線を送る。
その視線の意味に気づいたモナルッポは、
いまだ、喧噪冷めやらぬ現場からソっと抜け出して、
そそくさと、自室へと戻った。
その後についていくザンクから、
「あれ? なんで、急に、帰るん?」
と、聞かれて、
モナルッポは、
「ドーキガンが、俺と対話したがっている。おそらくだが、ここにきたのは、それが理由だろう」