35話 終わった……私の人生……
35話 終わった……私の人生……
(このままでは、ひきずりおろされる……死ぬ気でつかみ取った、国家主席の地位を……奪われる……ありえない! そんなこと!)
これまでに積み上げてきた苦労を思い出し、
カバノンは、魂を燃やした。
限界を超えて、魔力とオーラをひねりあげる。
これまでの人生で、ここまで、自分自身と向き合ったのは初めてかもしれない。
「ヘルズ覇鬼ぃいい! 命令を聞けぇええ! 貴様は、私の召喚獣だろぉおお!」
その事実を、周囲に再認識させることは、カバノンにとってマイナスである。
そんなことは分かっているのだが、しかし、叫ばずにはいられなかった。
もはや、机上の計算は立たない。
ただ、本能の焦りに突き動かされている。
――必死になって、全力を出すカバノン。
これまでの人生で最高の一撃を放った。
間違いなく、最高の一撃だった。
……しかし、ヘルズ覇鬼は止まらない。
先ほどの一撃はすさまじかったので、
そこそこのダメージは通ったのだが、
しかし、そのダメージも、すぐに回復してしまう。
壊れたヘルズ覇鬼の生命力はレベルが違った。
(ほ、ほぼ無傷?! 壊れたことで、そこまで、存在値が底上げされているのか……い、いかん……無理だ……こうなると……対処のしようがない……っ)
カバノンは絶望する。
心が折れた瞬間。
頭がいいからこそ、イヤになるほど正確に見えてしまう未来予想図。
絶望的な未来を変えようと足掻いてみたが、どれだけ頑張っても不可能だと悟り、心がバキバキに砕けてしまった。
(終わった、私の人生……)
オーラで隆起していた肉体がしぼむ。
魔力が霧散していく。
誰の目にも明らかなほど、カバノンは未来を諦めていた。
その様を尻目に、ザンクは、
(あーらら……カバはん、完全に折れてもうたねぇ。おのれの人生がかかっとるんやから、もっと頑張ったらええのに)
などとカバノンの高速諦観に対して感想を漏らしつつ、
心の中で、
(ザンクさんやったら、折れずに、立ち向かえるやろうか……)
などと、そんなことを、ふと考える。
(流石にカバはんよりは粘るやろうけど、もし、カバはん程度の知性と力しか持ってなかったら……まあ途中で諦めるやろうなぁ。流石に相手が悪すぎるからなぁ)
などとザンクが呑気に、現場を俯瞰していると、
そこでレバーデインの生命力が尽きてしまった。
ここまで、どうにかヘルズ覇鬼の攻撃に耐えていたが、
ついに、体力の限界がきてしまい、
「ぷげっ――」
グシャっと圧殺されてしまった。
ヘルズ覇鬼の『膨大なオーラのこもった右腕』に、顔面を掴まれて、そのまま、地面に、豪快にたたきつけられた。
肉が丁寧なミンチとなり、骨がバキバキに砕かれ、脳が弾け飛んだ。
誰もがレバーデインの死を確信した。
なんせ、頭部が完全に潰されてしまったのだから。
死なない方がおかしい。
実の弟であるモナルッポは、
渋い顔で、
(さ、最悪だ……レバーデインは聖龍王国との戦争で必要なコマだったのに……レバーデイン級の強者は少ないんだぞ……くそ……っ)