30話 ザンクさんは生粋のインドア。
30話 ザンクさんは生粋のインドア。
(仕上げに――機動人形ランク12。――星屑、出撃準備開始)
丁寧に無詠唱で機動魔法を発動させる。
事前に、機動魔法の全挙動に対してフェイクオーラを仕込んでいたので、周囲の人間には、機動魔法を使ったことは一切バレていない。
『――マシンゴーレム、出撃準備完了』
脳内にだけ響く起動開始の合図。
直後、無数の『魔法鋼パーツ(フェイクオーラで隠蔽された状態)』が、噴火したマグマのようにドワっと湧き上がってきて、ガチャガチャガチャッと、召喚者の体を閉じ込めるように組みたてられていく。
ほとんど一瞬のうちに、ザンクの体を、全長2メートルほどの機械人形の中に閉じ込めてしまった。
無駄なパーツを排除して、徹底的に小型化&最適化させたフォルム。
擬態とフェイクオーラでバチバチに隠蔽しているので、
ザンクが、現在、機動魔法を使用中であると気づいている者はいない。
状況を整えると、
ザンクは、右手にオーラと魔力をギュンギュンに込めて、
(さあ、これならどうや!)
グンっと、踏み込み足に力を込めて、
ヘルズ覇鬼の腹部に風穴を開けようと、固く握りしめられた拳を突き出した――が、
(……んー、これでもあかんかぁ……)
ヘルズ覇鬼は、わずかも表情を変えておらず、ピクリともしなかった。
(素の力が低すぎると、なんぼ倍率かけても無意味ってことやな……)
最初から、予想はついていたが、
実際に試せば、何か、変わった結果が出るのではないか、
と、期待して、実験をしてみたが、
結果は、推測の範疇に収まった。
(今回の実験で得た『何より重要な情報』は……『ザンクさんは、やっぱり、肉体労働系が向いてない』ってことやな)
これも、もともと予想はついていた。
昔から、ザンクは、運動が好きではなかった。
決して苦手ではないのだが、
『やりたい』という意欲は特にわかない生粋のインドア派。
(格闘技もスポーツも、マジで興味ないねんなぁ……)
ちなみに、親戚の『東志』は、どうやら野球が好きらしい。
そのことを、風のウワサで聞いたことがあるザンクは、
『あんな、見とるだけでもクソかったるいもんの、なにがおもろいねん』
と、疑問符を浮かべるばかりだった。
相撲やプロレスやボクシングなどの格闘技に関しても、
『これを見ることに金を払う人間がおるんやもんなぁ……世の中、ワケわからへんなぁ』
と思うばかりだった。
(単純な殺し合いで覇権を目指そうと思ったら、武道の鍛錬が必須……けど、性格的に、そんなもんは、やってられへん……というわけで、今後の基本方針、決定。ザンクさんは、搦め手バリバリのスーパー邪道タイプを目指しましょう)
そうそうに、『王道タイプの道』を放棄するザンク。
『魂を燃やして真正面からの殴り合い』など、彼の性格にはあっていない。
『熱血系の暑苦しいのが苦手』というわけではないが、
別に、自らが、そこにどっぷりつかりたいとは思っていない。
冷めているわけでも、変に、斜に構えているわけでもない。
ただ、純粋に、本質の問題。