12話 『遊』の属性は、どこまでも自由。
12話 『遊』の属性は、どこまでも自由。
(こいつの頭は、確かに、特別らしい……だが、記憶力と理解力が優れているだけでは、戦場だと、さほど役には立たない……敵が、強大な力を持っていた場合、知恵だけで立ち向かうことは不可能。事実、こいつは、さっき、レバーデインに殺された……)
などと考えていると、
その顔をチラ見したザンクが、
「考えとること、だいたい分かるで。頭がええだけでは、戦争では役に立たんと思とるんやろ? それはまあ、確かにそのとおり。けど、とびぬけた頭脳ってのは、基本的なルールをも超えていけるんやで」
などと言いながら、
ザンクは、親指の腹をナイフで切って、かるく血を出すと、
その血で、モナルッポの執務机の上に、小さなジオメトリを描き、
ぶつぶつと、呪文を詠唱する。
一分ほどかけて、長い呪文を並べてから、
「――遊術ランク10――」
そう口にした直後、
ザンクが手にしているナイフが淡くかがやきだす。
それを見て、モナルッポは目を丸くした。
「ば、ばかな……そんなゴミみたいな魔力で……どうして、ランク10の魔法が……」
「ただ魔法を使っただけやないで。こんな芸当もできる」
そういいながら、ザンクは、ナイフに込められているエンチャントの属性を、どんどんと変更させていく。
真っ赤に燃える炎、凍てつく氷、バチバチと音がする雷、
無邪気で自由な『遊』の属性を見事に掌握していた。
「……」
「だんだん、虚理の湿度感が見えてきた……もうちょい、出力をあげてみよか」
エンチャントを炎にしてから、集中力を底上げする。
すると、まるで、燃料でも投下したみたいに、
ナイフに纏っている炎の火力が爆上がりした。
目に見える激烈な変化。
ランク10とは思えないほどの魔力。
「伝導率が、ちょい微妙やな……マナ循環機構に対する理解度が、まだ足りてない感じか……」
そうつぶやくと、
ザンクは、禁書の中から、
マナと魔力に関する本を見つけ出し、
それを、ササササァと、とんでもない速度で読み進めていく。
マナに関する本は、電話帳なみの鈍器サイズで、文章も小難しいため、優秀な魔法使いでも、読み進めるのに、だいぶ苦労をする。
魔力に関する知識ゼロの一般人が、この本を読破しようとしたら、最低でも5年はかかる。
そんな禁書を、ザンクは、秒で読み終えると、
「この本、重要なところが書かれてへんな……虚理ポンプの働きによって、どのていど、Eマナの循環率に変動がおこるか……そこが大事やのに、重要な部分がぜんぶ抜け落ちとる……全体的に、研究不足。もうちょいちゃんと調べてから本にせぇや」
ぶつぶつと文句をいいつつ、
「まあ、ええわ。しゃーないから、ザンクさんが、補完したる。この場で、実験して確かめたろやないか」
学者の顔になったザンクは、
おぼえたての魔法を、高度にこねくりまわしながら、
いくつかの実験を同時に行っていく。
もはや、ここまでくると、モナルッポでも、何をしているのか、
さっぱり分からなかった。