2話 39。
2話 39。
「頼むテ、マじデ。お願イ」
などと、しつこく言ってくるので、鬱陶しくなったモナルッポは、
「はぁ……」
と、一度タメ息をついてから、『彼』が望む通り、音読する。
「あ、あと、ここと、ここも。悪いね」
短い文章なので、読み上げるのはそこまで苦でもない。
だが、
「――あ、あと、ここ、あとここも」
何度もお願いされたことで、
「おい、いい加減にしろ」
と、普通にキレるモナルッポ。
「OK。もう大丈夫。グラシアス」
そう言うと、『彼』は、
ごほん、とセキを一つはさんで、
「ほな、約束通り、質問に答えさせてもらうわ。最初に、あんたから受けた『人間か否か』の質問にも、しっかりと答えさせてもらうで。一応、人間は人間なんやけど、そうやない可能性もゼロではないと思う。生まれてから、17年間、色々、あれこれあったけれども、どうにかこうにか、人間としてやらせてもらってきた……と、記憶しとる。一応な」
先ほどまでと打って変わって、突然、流暢に話し出した『彼』の、イカれた圧力に、モナルッポは、一瞬、
(な、なんだ、こいつ、とつぜん……)
『うっ』と圧倒されたが、すぐに、
「よ、余計なことは言わなくていい。それで、名前は?」
「名前は、田中斬九。ちなみに、これは表の名前。『真名』は教えられへんな」
「真名など必要ない。『真名を掌握していなければ使役できない』などという、低次元な召喚術など使わないからな」
「あ、そうなん? なんや、おもろないな。『真名さえ隠しとけば、マスターをだまし討ちすることも可能』……みたいな感じやったら、色々と、おもろかったのに」
「……お前、人間だよな? ずいぶんと、悪魔っぽい性格だが……」
「不思議なことに、よぉ言われんねん。ザンクさんは、こんなにも純粋で、いろんな人から頻繁に『天使のようにきれいな心の持ち主……であればよかったのに』と思われるぐらいやのに」
「……『あればよかったのに』と頻繁に思われるということは、色々な人から、『改心必須のクソ野郎だ』と思われているという証拠では?」
「ははは、ちゃんとツッコんでくれんねんなぁ。よかった、よかった。ザンクさんは、お茶目でおしゃべりやから、召喚マスターが、『何のリアクションもしてくれん仏頂面のダンマリさん』やったら地獄やった」
などと、軽快な口調でそう言ってから、
「ちなみに、ザンクさんの真名は、『タナカ・イス・ザンク』って言うんや。以後、お見知りおきを」
「……教えられないんじゃなかったのか?」
「え、誰がそんなこと言うたん? ザンクさんの知っとる人?」
「……」
「ははは。ええ顔するやないか。嫌いやないで、モナルッポさんよぉ」
「……なぜ、私の名前を? まだ、名乗っていないが?」
「いや、机の上に、ネームプレートがあるやん。まあ、あれが、あんたの机やない可能性もあるけど、さっき、『私の本にさわるな』と言うとったから、この部屋があんたものである可能性は高いと思った。そんだけっすわ。メンタリズムというのもおこがましい、ただの状況観察やね」
「……どうやら、文字は読めるようだな」
「さっき、あんたの本で勉強したからな」
「……ん?」