68話 王が動かなければ民はついてこない。
68話 王が動かなければ民はついてこない。
「私の力では、聖龍王エルメスの目をごまかすことは難しいです」
「ん……まあ……そうだな……お前の存在値だと、龍の感知能力をごまかすのは、さすがに厳しいか……」
キッツは、間違いなく優秀だが、『圧倒的上位者』が相手だと、さすがに、手も足も出ない。
ランク20魔カードの製造方法は、聖龍王国の柱であることは間違いない。
そんな大事な箇所に、エルメスの目が光っていないはずがない。
「だが、ランク20魔カードに関する情報は、是が非でもほしいところ……」
そう言いながら、モナルッポは、未来を考える。
「……ショデヒを、正式に、こちらへと引き込むか……」
と、考えたが、すぐに、
「いや、あれはダメだ……狡猾で野心家すぎる……獅子身中の虫にしかならない気がする……」
メリットとデメリットを同時に思案する。
何が『答え』たりえるのか。
それは、計算している段階だと分からない。
人生において、『最初から答えが用意されている問題』は少ない。
モナルッポは考える。
必死になって、未来を演算する。
その結果、
「……俺がいくか……」
ボソっと、そうつぶやいたモナルッポに、
キッツが、
「それは、おやめください。近い将来、世界の王となるあなた様に、万が一のことがあっては――」
「今、ここで動かなければ、この世界は、聖龍王国に蹂躙されてしまう可能性がある。俺が王として君臨する予定の世界を、俺が命がけで守るのは至極当然の話」
「……では、私も共にいきます。私一人では、龍の感知をごまかすことは難しいですが、モナ様の助力があれば、どうにかなるでしょう。もしもの時は、私がモナ様の盾になります」
「……ああ、頼んだ」
言われなくとも、最初からそのつもりだった。
モナルッポは、常に、『王としての最善の選択肢』を求めている。
自分の命と、キッツの命、どちらかを天秤にかけなければいけなくなった時、
モナルッポは、迷わず、自分の命を残すことを選択できる。
その時、モナルッポは、『人間的な迷い』を見せたりしない。
だが、
「しかし、それは、最悪の時の話だ。もし、そこに、二人とも生き残れる可能性が残っているのなら、最後の最後まで、その可能性を、とことん追求する。どうしても不可能だと両方が判断した場合は、お前を盾にして逃走する。いいな」
「はっ」
★
即断即決。
モナルッポは、決意すると同時、
城から抜け出して、北方の森へと向かった。
兄である『レバーデイン』の立場であれば、こんなことはなかなか出来ないが、
しかし、現状のモナルッポには、かなりの自由が許されている。
『可哀そうなほどの無能』という仮面は、こういう場面でも役に立つ。
油断を誘えるし、大きな自由も得られる。
足場を固めたいモナルッポにとって、『無能の仮面』は非常に使い勝手のいい必須アイテム。
「――モナ様。そろそろ、聖龍王国の正式な領地に入ります。ここからどうするのですか?」
キッツの言葉に視線だけで応えると、
モナルッポは、キッツに右手を向けて、
「擬態ランク23」
『鬼の進化種』に見えるよう擬態をかける。