63話 ディティールにこだわる職人気質のモナルッポ。
63話 ディティールにこだわる職人気質のモナルッポ。
(……1億でも安いな……『ランク20の魔カードの価値』は計り知れない……)
などとモナルッポが思っていると、
ショデヒは、
「900万テスほどでお売りしたいと考えております」
「……っっ?!」
あまりの安さに驚きすぎて、一瞬、素の顔になりかけたが、
奥歯をかみしめて、『アホの表情』を取り戻すと、
「アホか、高ぇよ」
心の中では、
(……バカみたいな安価……そこまで値段を落としている意味は……)
などと、ショデヒの心の内を探りつつ、
「お前、俺をバカだと思ってぼったくろうとしていやがるな。俺は確かに魔カードの詳細に詳しくねぇけど、最高品質のもので100万ぐらいってことぐらいは知っているんだ。あんまりナメんじゃねぇぞ。倍か、3倍がギリだろ。なんだ、900万って、バカか」
などと、表面では『ものの価値が分からない愚者』を丸出しにしつつ、
心の中では、
(……最初に安く売って、依存させてから値段を上げるというのは、薬なんかではよくある手法。もし、そのパターンだとしたら、聖龍王国が創ったランク20の魔カードは、この一枚だけではなく、他にも何枚かあると見た方がいい……とんでもない技術力……その知識と力は、是非知りたいところだが……さすがに、それを手に入れることはできないだろう……)
高速で頭を回す。
表面でバカを演じながら、心の中で高速計算に興じる――長年、訓練してきたこの技能では、誰にも負ける気がしないモナルッポ。
ショデヒが、恭しい態度のまま、
「ランク20の魔カードの価値は、そこらの魔カードとは比べ物になりません。900万でも安いぐらいですよ」
「うそつけよ。900万という数字をナメんなよ。庶民なら20年暮らせるんじゃねぇか? 知らんけど」
いくら庶民とはいえ、20年暮らすためには、最低でも2000万前後は必要。
理想の王を目指し、一般常識に関する勉強もかかしていないモナルッポは、そのことも当然抑えているのだが、『その辺の感覚からしてあいまいなバカ王子』を演じるために、あえて、ここでは、20年という数字を選んで口にした。
こういう、非常に細かいところでも、シッカリと、愚者を演じていく。
ディティールにも精度にもこだわる職人気質な演技派。
だから、誰も、モナルッポの本性には気づかない。
――ちなみに、キッツも、幼少期は、モナルッポのことを、本気でバカにしていた。
モナルッポに『優秀である』と認められ、正体を明かされたからこそ、モナルッポの本質を知ることができたが、モナルッポから直々に正体を明かされていなかった場合、自力で気づくのは、何年かけようと、絶対に不可能だっただろう。
モナルッポの、繊細な演技を尻目に、
キッツが、
「900万だと、庶民でも、10年前後が限界だと思いますよ。最近は物価も上がっていますし」
と、『モナルッポのバカっぷり』を、『正式な忠言』と言う形で、
ショデヒに植え付けてから、
「モナ様、ショデヒ殿が言っていることに間違いはありません。確かに、ランク20の魔カードともなれば、それだけの価値はあるかと。むしろ、900万は、そうとう安いと思いますよ」